★試写会中毒★-08.11.27バシールとワルツを
満 足 度:★★★★★★★★★
   (★×10=満点)



監  督:アリ・フォルマン
声の出演:アリ・フォルマン
      オリ・シヴァン
      ロニ・ダイグ
      シュミュエル・フランクル
      ロン・ベン・イサヒ、他










コンペティション作品


■内容■


 映画監督アリは、ある男から
毎夜26匹の猛犬に追われる夢に悩まされているという話を聞き、
これが自分も従軍した80年代初めの
レバノン戦争に関係あるのではないか、という結論に至る。

 戦争についての記憶がほとんど消え去っているアリは、
この戦争が何であったのかを突き止めるため、
友人たちやかつての」同僚たちにインタビューをすることを決意する・・・。

                           (公式プログラム より)



■感想■


 今回一番、期待(楽しい映画ではありません)していた映画です。

 

 レバノン戦争って、正直、
その発端となった出来事が私はいまひとつ理解できていません。
ただ、民族や宗教、宗派の対立に起因する紛争が
内戦なのか国際的な問題なのかも微妙なとこだと思う反面、
兵器の供給が外国から行われているので
諸外国が立ち入って和解に導くのは
とても難しいことなのではと思っています。


 以前、ニュースを見たとき、
イスラエルの方々から戦争を支持している印象を受けたのですが、
本作で主人公となるアリは、
パレスチナ難民虐殺事件に加わったイスラエル側の兵士でした。
イスラエルでは、18歳から男子は3年、女子は2年の兵役義務があり
当時19歳のアリは、義務の真っ只中です。
10代の頃から、日常の風景が戦場だったら、
戦うのが当然だという感覚になるのかもしれませんが、
無意識のうちに記憶が封印されていたことから、
その現実がどれほど悲惨なのかを窺うことができました。
そして、どの戦争に参加した兵士にも
同じことがいえるのだと思いました。


 アリは、記憶を辿りながら
高層ビルが建ち並ぶ夜景を見ながら海に浮かんでいる夢を見ますが
犬の夢を見た知人のように戦争に直接結びつく要因がある夢ではなく
現実離れしていて妄想のような雰囲気があります。
目の前に戦争、虐殺という現実があっても
当時はそれを妄想として見ることで
自身の中で消化していたということでしょうかね。。。
最初、ドキュメンタリーだけど
アニメーションだと知った時は驚いたのですが、
この妄想をリアルに表す手法として、ピッタリだと思いました。

アニメだからこそリアルです。


 終盤で、一瞬アニメーションじゃなくなる部分がありますが、
やっぱりこれは現実なんです。。。という
監督からのメッセージのようでした。
戦争はどこをどうしても
マイナスでしかないということなんだと思います。


 日本での公開は未定のようですが、
公開が決まったらもう一度観に行きたいです。



■ティーチイン■

 

 上映後に、ヨニ・グッドマン アニメーション監督の
ティーチインがあり、最初にご挨拶をいただきました。


「アニメの伝統の国、日本に来ることができて光栄です。
 本作は、戦争を経験したアリ・フォルマン監督自身のもの。
 戦争を負として扱い、持っている恐怖を描いています。」


Q.
「ドキュメンタリーであるが、全編アニメという形式は
 どのような経緯で決めたのですか?」
A.
「TVでドキュメントシリーズを作っていて、
 そこでアニメを作ったのが監督との出会いです。
 監督と話し合って恐怖や現象をありのまま映したいと思い、
 それにはアニメが最適の方法だと考えたのです。」


Q.
「スキャナーダークリーの映像を想像していたのですが、
 CGっぽくなくて、簡略化された映像のような気がしたのですが?」
A.
「スキャナー・・・は、ロトスコープ技術です。
 本作はカットアウトアニメーションで、10人のアニメーターで作りました。 
 技術的な手法を簡略化しましたが
 技術の不備を作品では長所に出来たと思います。」


Q.
「イスラエルでの反応は?」
A.
「左翼的な政治的映画と見なされると思っていましたが
 共感する人が多く、
 戦争は人を変えてしまうと思っている人が大勢いることがわかり、
 体験をわかちあえる作品になりました。」


Q.
「本作によって何か変わりましたか?」
A.
「現実が過酷な悪夢と人の記憶の中で一つになるということがわかった。
 また、今まで何も語らなかった元兵士達が、
 言葉に出して当時の出来事や気持ちを語るようになりました。」


Q.
「虐殺のシーンが実写なのは何故?」
A.
「実写が現実、アニメが逃避と思われがちですが
 (どう映像を変えても)現実からは逃れられないのです。
 ほぼアニメだからといって、現実ではなかった、
 ということではないということです。」


Q.
「異なったシーンを断片的に繋げているが、アニメでこの手法をとった意図は?」
A.
「監督(主人公アリ)が記憶を辿っていくため、断片的になっています。
 この手法が観客に好まれるかはわかりませんが、
 そのメッセージは伝わっていると思っています。」