08.11.30ティトフ・ヴェレスに生まれて
満 足 度:★★★★★★★★★
   (★×10=満点)

監  督:テオナ・ストゥルガー・ミテフスカ
キャスト:ラビナ・ミテフスカ
      ニコリーナ・クジャカ
      アナ・コストフスカ、他










特別招待作品


■内容■

 環境汚染にさらされている産業都市ヴェレス。
そこに住む三姉妹。


 三女のアフロディタは、
母親が出て行って父親が死んで以来、言葉を失っている。
次女のサッフォーは妹と異なり活動的で、
男性との付き合いも派手だ。
工場で働いている長女のスラヴィカは麻薬中毒に陥っている。


                  (公式プログラム より)


                  


■感想■

 
 色彩が印象的でした。

殺風景な部屋の中で、リネンが鮮烈。

女性が選びそうな色柄で、シーツはたびたび変わっていました。

どれも素敵です。


 そして、三女のアフロディタが着る洋服が、グリーンか赤なの。
気分が沈んでいる時にはグリーン、
高潮している時には赤、を着ているような気がしました。


 ちなみに、男性に会うときは赤い服ですが、
登場する二人の男性は、長女にプロポーズした相手と
次女と深い仲にある男性なんです!
さらに、長女の相手はつい最近まで次女と関係があった男性。

驚きの関係なんです。。。



 三姉妹は、お互いを心配しているようで、どこか自己中心的。
嘘をついたり、約束を破ったりと、
親しいのか裏切りあっているのか微妙な関係に見えました。


 ティトフ・ヴェレスでの生活環境と両親の不在が
三姉妹の不安定さの原因のような気がするし、
長年、姉妹だけで暮らしてきたとはいえ、
両親がいなくなったときから家族の崩壊が始まっていたのだと思います。
アフロディタが意地でも話さないくせに
子供を欲しがっていたのは、
新しい家族が欲しかったから? と思いながら観ていました。


 悲劇としかいいようがない三姉妹の運命でしたが、
ユーゴスラビアの指導者、ティトーが
この国の人々にとってどういう存在なのかも気になりました。



■ティーチイン■


08.11.30ティトフ ティーチイン


 上映後に、舞台となったマケドニア出身の
テオナ・ストゥルガー・ミテフスカ監督のティーチインがあり、
最初に
「早朝の上映と聞いて少しナーバスになりましたが、
 こんなに沢山の方々が観にきてくれて嬉しいです。」
と、ご挨拶がありました。


Q.
「素晴らしい色彩でしたが、そこに意図は?」
A.
「視覚芸術として考え、
 視覚芸術と映像が結びついているものを作りたかった。
 私たち(スタッフ一同)は色彩の意味合いを研究し
 色彩が人物の感情をどう表すかについて考えました。
 一画面ずつ独立して存在することを目指し、
 そのためにも色彩を追求しました。」


Q.
「シネスコープを選んだ理由は?」
A.
「ワイドスクリーンのシネスコは、私も同様ですが、
 撮影監督のヴィルジニーが特に強く希望していました。
 今は時代の変わり目で、そのうちハイビジョン撮影になり
 フィルムで撮影された映画も終わりがくるかもしれません。
 しかしフィルムこそが現実を一番よく表現できると思います。
 だからこそ、いつかは朽ちる技術かもしれませんが、
 こだわってシネスコで撮りました。」


Q.
「三姉妹と同時に街(の公害)を描いた意図は?」
A.
「マケドニアは車で2時間半ほど走ると通り過ぎてしまうほど
 小さな国です。 
 その中心には大きな工場があり
 そこに住んでいる人々に糧を与えると同時に、
 公害などで害を与えているという二面性があります。
 工場は怪物のような一人のキャストです。
 その社会的責任を映画で撮るために、公害問題を扱いました。
 ユーゴスラビアの政治家・ティトーは産業化の象徴ですが、
 死をも進歩させました。」


Q.
「現地の人にとってティトーの存在とは?」
A.
「彼が産業化、近代化をもたらしたので、
 工場の問題があるにせよ
 ネガティブな印象で語られることはありません。
 ユーゴスラビアの人々の感情は二面性があり複合的です。」


Q.
「劇中のように、実際にビザの取得は困難?」
A.
「EUに加盟していないし、閉鎖的な国なので
 ビザなしで行ける外国は少ないです。
 今回、フィルメックスで日本に行くことになったとき
 “ビザはいらない”と言われとても驚きました!
 生きる権利、自由に動く権利は人権はの一つだと思いますが
 私たちはそれを持っていません。必要だと思います。」


 時間ギリギリまで観客の質問に答えてくれて、
フレンドリーで親切、丁寧な監督でした。
日本の映画もご覧になられるそうで、
小津安二郎監督が好きで影響を受けたそうです。
ちなみに監督のお父様は黒澤明ファンだそうな!