08.02.10明日への遺言
満 足 度:★★★★★★★★
   (★×10=満点)
 
監  督:小泉堯史
キャスト:藤田まこと
      ロバート・レッサー
      フレッド・マックイーン
      リチャード・ニール
      西村雅彦
      蒼井優
      田中好子
      富司純子、他



■ストーリー■

 1945年5月、米軍が名古屋を絨毯爆撃した。
その際、日本の反撃により墜落した飛行機から38名の米軍兵士が落下し
日本軍により拘束された彼らは、略式裁判により処刑された。

 終戦後、米軍兵士を処刑した
東海軍司令官・岡田資中将(藤田まこと)ら20名は、
捕虜殺害によりB級戦犯として起訴されてしまう。
しかし岡田は、
「米兵は捕虜ではなく無差別爆撃を行った戦犯だ、
 当時の状況では略式手続もやむを得ない状況で 
 全ては司令官である自分の責任である」と主張。

 こうして略式裁判の正当性と自分の責任を主張した岡田は、
「法戦」と名付けたこの裁判に挑むのであった・・・。


■感想■

 今日は、小泉堯史監督のティーチイン付き試写でした。
上映後、話をするのが苦手とおっしゃりながらも
一つ一つの質問に丁寧に答えてくださいました。

 小泉監督は、助監督時代から師である黒澤明監督より
「とにかく『書く』ことは大切」 と言われていて、
常に何等かの題材を見つけては脚本を書いていたそうです。
本作品の脚本も、10年ほど前に既に仕上がっていたみたい。

 原作は大岡昇平の「ながい旅」本
裁判ものなので、映画を観る前に原作を読んで
予備知識を入れておいたほうが良いかなぁと思っていたのですが、
しかし、、、、長いのに加え、一つ一つの言葉が難しく感じ
未だ読書中でございます。。。
なので、岡田資中将についてサクッと調べた状態で
試写を観に行って参りました。

 監督が「できるだけ原作に忠実に描いた」とおっしゃってただけあって
無理に泣かせるわけでなく淡々とその当時のやりとりが描かれていました。
そして竹野内豊のナレーション 温子夫人(富司純子)の心の声 によって
当時を知らない人、この裁判を知らない人にも
わかりやすい解説があるので、理解しやすかったです。

 あらすじからもわかるように、岡田中将は理想の上司
しかも責任感だけではなくて、
英国の大使館勤務の経験もあり博学であります。
名実ともに理想の上司なの。

 裁判において岡田中将の誇り信念は、
傍聴していた日本人だけではなく、
米国人である検事、裁判官の心を動かします。
それにもかかわらず
何故この裁判がそれほど有名でなかったのか。。。
それは、岡田中将と同じ東海軍の法務部長である少将が
「自分は一切知らなかった」と書き残し自殺したこと、
それを取り調べた少将の調書が法廷で採用されたことによって、
裁判が思ったより複雑化し、
一部の人しかこの裁判を知らなかったことにあるようでした。

 私は正直言って、
戦争の最中に、正しいこと、間違っていることを
何をもって判断するのかわかりません。
そもそも戦争自体、お互いの国を破壊し兵士を殺しあうわけだから
岡田中将が冒頭で言っていたように
「負けた国が全ての責任を負うのはおかしい」と思うんです。
でも、戦争の犠牲になった命、モノ、心について
誰かが責任を取らなければならないとしたら
敗戦国の司令官しかいないのかなと、
納得できないまま今も考えています。

 岡田中将は、戦争は誰もが被害者であるけれど、
それまで生きてきた人としての誇りを失ってはいけない
と言っているような気がしました。
その一つに、自殺した法務部長のことは一切語らず、
終戦と同時に手のひらを返して米国目線で調書を書いた
少将のことを非難するセリフが出てきます。
まさに誇りを捨て、
命惜しさに敵国側に立った元仲間への怒りだと思います。

 少将みたいな人、今の時代も結構いると思うんです。
私自身も、潔く誇りを持ち、
何の曇りもない心で生きてきたとは言いきれない一人です。
戦犯裁判において、岡田中将の生き様を通じ、
人としての誇りを教えられた気がいたしました。
これから日本を担っていく若い人にほど
観て欲しい映画だなと思いました。

 そうそう、ティーチインでの監督の発言に
驚いたことがありました。
裁判の同時通訳のシーンは、
傍聴席の後ろのブースに本当に声が伝わり
翻訳されてから再びヘッドホンに声が流れてくるそうなんです。
形だけではなく、
実際に同時通訳をしながら撮影をしていたなんて、感動です。

 細部にまでこだわり、
完璧に仕上げるスタッフのチームワークに
彼らを取りまとめる監督の誠実な人柄を感じました。
監督は岡田中将に魅力を感じて脚本を書いたそうですが
監督自身、スタッフを想い、スタッフから慕われ、
岡田中将に似ているのでは。。。と思いました。