三國屋物語 第3話
男がわずかに腰をさげ身構える。身体は大きいが強いとは限らない。三人を相手に、はたして勝てるのだろうか。
商売柄といったらいいだろうか。こんな状況でさえ、いでたちに視線がいってしまう。
男は立派な大小拵(だいしょうごしらえ)の刀を手挟(たばさ)んでいた。腰のあたりに、きらりと光るものがある。見ると、家紋(かもん)に沈金(ちんきん)をあしらった豪華な印籠(いんろう)だった。なりはそれほどでもないが、いずれかの家中の者だろう。印籠の家紋に目をこらす。
丸に笹竜胆(まるにささりんどう)……。
その時、三人がいっせいに匕首(あいくち)をぬいた。奇声をあげ次々に男に襲いかかる。
男は最初、それらを器用によけていたが、そのうち低い気合をあげ年長の追いはぎの足をなぎはらった。くるりと身体を反転させ地面にもんどりうつ。年長の追いはぎは、そのまま苦しげに腰に手をあて、うずくまってしまった。
次は一番若い追いはぎが突っかかっていった。男がすばやく入身してかわす。同時に追いはぎの腕を払い見事な投げを打ってみせた。投げられた方は気を失ったようだ。
強い……。
最後の追いはぎが匕首(あいくち)を手にたじろいでいる。男が「まだいたか」とつぶやき、はじめて刀(かたな)の柄(つか)に手をかけた。音もなく鞘(さや)をはらう。朱色(あけいろ)の陽をうけ蒼白い刀身がほのかにきらめいた。
なんと見事な刀……。
追いはぎが甲高い声をあげ盛大に尻餅(しりもち)をついた。
男が刀をかまえ短い気合を発する。追いはぎは飛び跳ねるように腰をあげ一目散に逃げていってしまった。
安堵して大きく肩をおとす。
男が刀をかるく拭い鞘(さや)におさめた。
「災難であったな」
男は砂利のうえに放りだされた着物を拾いあげると、目を背けるようにして背中から着物をかけてきた。
まだ瞬が男だと気づいていないらしい。「助かりました」というと、男は双眸(そうぼう)を大きくひらき瞬の前にまわりこんできた。
あらわになった胸のあたりに視線をおとし、とたんに渋面をつくる。さすがに「なんだ男か」と、言葉にするのは憚(はばか)られるらしい。
瞬が「わたくしは」と話しだすと、男はわざとらしく空を仰ぎ「気をつけて参られよ」とつぶやいた。
「え」
「では」
男が踵(きびす)をかえし歩きはじめる。
「ちょっと……」
冗談ではない。このままひとりで帰れというのか。まだ追いはぎが近くにいるかも知れない。次に襲われたら今度は着物だけではすまないだろう。是が非でも店(たな)まで送ってもらわなければ生きた心地がしなかった。
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