三國屋物語 第2話
三人とも訛(なま)りがない。土地の人間でないということは、すぐとわかった。
一番若くみえる男が、いきなり羽織に手をかけてきた。やんわりと剥ぎとり「上物だ」とつぶやく。優しさからではない。戦利品を傷つけたくないだけだ。
次には帯に手がかかった。このままでは丸裸にされてしまう。
「ほう……。これはまた」
いって、手にした帯をかるくしごき絹特有の音に目を細める。
最後に年長の男が瞬の着物を造作もなく抜きとった。
すでに襦袢(じゅばん)しかつけていない。
「ついでに襦袢(じゅばん)も草履(ぞうり)もおいていきな」
「これは、お許しください」
「ここまで脱いだら、おなじだろうぜ」
いい終らないうちに腰紐に手がかかる。瞬がはじめて悲鳴をあげた。
「女みてえな声だな」
どっと笑い声がおこった。
ひとりが髪を結っていた紐を引きちぎる。長い髪がぱさりと肩にかかってきた。
「器量よしだが男じゃなあ」
「祇園や三本木あたりなら売れるかもしないぜ」
「売る……?」
おもわず問い返す。
「そうよ」
一番若い男がさらりと顎をなぜ「なるほど」と、つぶやいた。
「あそこらの茶屋は長州のやつらがよく接待につかうときく」
そういえば薩摩藩や土佐藩などでは衆道が盛んにおこなわれているときいたことがある。下火になっていた衆道が武士の間で息を吹き返してきているのだろうか。
瞬は腹の底から怖くなった。このまま無事に家に帰れるのか。
「駄目だ、足がつく」
一番年長の男がにべもなく会話を打ち切る。
ひとりが「冗談ですよ」といって、手にもった着物をまるめだした。
「その姿で逃げ帰ったら若い娘がさぞ喜ぶだろうぜ」
「目にあざのひとつでもつけてやろうか。男の一分がたつぜ」
男が指を鳴らし凄みをきかせる。傷のひとつでもつけてやらなければ気がすまないといったところか。
「お許しを……」
地面に尻をついたまま、じりじりと後ずさる。砂利が引きずられ歪(いびつ)な音をたてた。
逃げなければ……。
力を振りしぼり飛びあがるように立ちあがる。そこまではよかったが、腰をあげたとたん背後からしたたかに蹴られてしまった。「あっ」と声をあげてつんのめる。地面にたたきつけられると思った刹那、ふわりとしたものにぶつかった。いや、正確にいえば抱きとめられたといったところか。
見上げると黄昏時の射光をあび、背の高い浪人風の男が無表情に見下ろしていた。
三人が口々に怒声をあげる。
男がすばやく瞬のまえに立った。
「女、さがっておれ」
女……?
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