黄昏はいつも優しくて3 ~第40話~
北沢は声をかければすぐに来てくれる。
この間もキスをされた……。
だがどうしてだろう。嫌な気がしない。北沢との接吻はいつのときも記憶の輪郭がぼけているのだ。あるいは、北沢は故意にそんな瞬間をえらんでいるのではないだろうか。
北沢という男はコミュニケーションの術に長けている。いやこの場合、駆け引きといったほうがしっくりくるだろう。激しい感情をぶつけるとすばやく退き、弱さをみせると大胆に攻めてくる。だが決して無理強いはしない。
どうしてぼくなんだ……。
北沢の地位と容姿があれば女に困ることはないはずだ。なのに北沢は相手がいるそぶりをみせない。不思議な男だった。篠塚への屈折した感情から瞬に興味をもちはじめたのだろうが、瞬への態度には北沢のもつ良質な部分が見え隠れしていて、どうにも突っぱねられない。
携帯電話を閉じて机のうえにおく。すると着信音が鳴りだした。篠塚からだった。
「瞬か」
「はい」
「明日の朝なんだが。貴子も一緒に途中まで乗っていくから八時にマンションのエントランスにきてくれ」
いつも瞬は篠塚の車に同乗して出社していた。
「……ぼくは電車でいきますから」
「瞬。どうしてそこまで」
近くに貴子がいるのだろう。篠塚は言葉をきると、いくぶん苛立たしげに「わかった」といって、電話を切った。
素直になったところで篠塚は変わらない。マイナス思考だ。わかっている。
マケインさえ現れなければ……。
駅のちかくでマケインの姿をみたあの日から気分がざわついている。興奮状態にあるわけでもないのに落ちつかない。怯えているとわかっているが認めたくない。北沢ならわかってくれるだろうか、この心理を。
北沢の番号をえらび通話ボタンをおす。呼び出し音を十回ほど鳴らし電話を切った。
「………」
孤独感がおしよせてくる。同時に笑いがこみあげてきた。
なにをしているんだ、ぼくは……。
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