second scene138 ~Episode・Shinozuka8~ | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

second scene138 ~Episode・Shinozuka8~

 料亭の部屋に飛びこんだときの衝撃は強かった。いまだに思いだすだけで鼓動がはやくなるほどだ。
 乱れた襟元、力なく投げだされた手。瞬の表情こそ穏やかだったが寄り添うようにしていた北沢の姿が、一瞬、あの夜のマケインと重なった。
 あの一件はニューヨークでの暴行事件につながっている。トラウマになっていることは否めない。瞬といるかぎり、あの事件は永遠に終わらない。
 なにをいまさら……。
 焦点のあわない目をむけてきた瞬の表情から、北沢となにもなかったことを悟った。安堵すると同時に捨て台詞に近しいことばが口をついてでてきた。
「北沢さん。徳川が必要としているのは、あなたじゃない。俺だ」
 見苦しい見栄だ。自信があったわけではない。瞬の心はすでに離れてしまっているのかもしれないのだ。だが北沢にだけは渡したくなかった。
 マンションに連れてかえった後はもう最悪の展開だった。なによりも瞬に投げかけられた言葉が痛かった。
「篠塚さんにはビジネスか遊びの選択肢しかないんだ。どうせぼくだって遊びなんでしょう」
 はじめて真摯にむきあった恋だった。遊びだといわれ気がつくと手をあげていた。自分でも驚くほど余裕がない。これまで交際相手になにをいわれようと心が動いたことはなかった。なのにこの無様な慌てようはなんだ。
 貴子とはもう会わない。そういえばすむことだった。だから安心しろと。俺はおまえのものなのだと……。
 ここでもくだらない意地をはってしまったのだ。恋愛関係に男も女もない。上下関係などナンセンスだと思ってきたし相手にも言葉にしてきた。だがそうじゃなかった。これまでの恋愛はつねに篠塚が優位にたっていた。別れる、別れないの選択肢はいつも篠塚にあったのだ。だが瞬は違う。
「………」

 上着をクローゼットにかけ、ネクタイをゆるめながら窓の外に視線をなげる。煌びやかな街のあかりが虚しかった。クリスマスイブをひとりで過ごすのは何年ぶりだろう。ふりかえり部屋をぐるりと見渡す。七十平米ほどある部屋だった。ひとりでは広すぎる。視界がいくぶん暗くなった気がした。これが孤独という感情なのだろうか。考えてみればいつも取り巻きのなかにいた。独りになりたいとおもうことはあっても、特定の相手に傍にいて欲しいと望んだ記憶がない。だからといって満たされていたわけではない。これまで心から欲する相手に巡り逢わなかっただけだ。

 最初から一方通行だったのかもしれない……。




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