second scene62
車は渋谷駅周辺にきていた。かなりの渋滞だったが北沢は苦にならないようだ。街はすでにクリスマス一色に染まっていた。舗道を飾る樹木がまばゆいイルミネーションをまとい、道ゆくひとの顔をあかるく照らしている。今年のクリスマスは篠塚と過ごせるだろうかと考え溜息つく。誕生日さえ一緒に祝えないのだ。クリスマスは仕事で終始するだろう。職場では一緒にいられるのだ。これ以上、望んではいけないのかもしれない。すくなくともあの執務室のなかでは篠塚は瞬のものだった。
「疲れた?」
「いえ」
なんのためらいもなく北沢の車に乗ってしまった。あれから部屋に戻ったところで持て余した感情の持っていきどころがない。それに、間宮の情報で北沢に確認しておきたいこともあった。
パーキングに車が停まった。北沢が腕時計をのぞきこむ。
「まだ五時前なんだね。すこし時間をつぶそうか」
「……はい」
北沢の後について歩きだす。しばらくして、北沢が立ちどまった。雑居ビルのまえで上階をみあげる。瞬もつられて視線をあげた。
「ビリヤード、したことある?」
「高校時代に少しだけ」
「ちょっとやらない?」
「いいですけど」
プールバーは五階にあった。休日とあって店内はかなりの混雑振りだ。店内の一角にビリヤード台がみえる。髪を金髪にした高校生らしきグループや、いかにも真面目そうな中年の男たち、派手な服装の若い男女などが楽しげにゲームに熱中していた。手前にはスロットマシーンやダーツなどもある。こんな機会でもないかぎり瞬が足を踏みいれる場所ではなかった。ニューヨーク赴任中、篠塚とカジノに行ったことがあるが、周囲をしめていたのは上流階級の紳士淑女だった。
受付をすませる。十五分ほど待ち時間があるようだ。北沢にうながされるまま隅のカウンターにすわる。瞬は珈琲を、北沢はジンジャエールを注文した。
「飲んでもいいよ」
北沢が棚にずらりと並んだバーボンやウィスキーに視線をなげる。
「いえ」
「そうか。徳川くん、弱いんだよね」
合宿の一件を言っているのだろう。空白の記憶はいっこうに戻らない。きっと酒と相性が悪いのだ。先刻は無性に酒が飲みたかったが、やはり飲まないに越したことはない。
「ビリヤード、よくやるんですか」
「学生時代にとても流行ってね。ビリヤードに明け暮れた時期があったんだ。そのときは自前のキューまでもっていたんだけど、最近はさっぱりだな」
「あの」
「ん?」
「以前、アプリコット社にいた黒岩さん、ご存知ですか」
北沢がそれとわかるほどに顔色を変えた。瞬の真意を図りかねているのだろう。「知ってるよ」といって、瞬の言葉を待つふうだ。
「いま、キエネの法務部に所属しているんですが、アプリコット社の社員だったときいたものですから」
「キエネに……?」
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