second scene61
それから、二度ほどサービスエリアに寄り篠塚と顔をあわせたが、会話らしい会話もなく道場に戻ってきた。三時ごろに着くはずであったが予定より一時間ほど遅くなった。途中、事故渋滞に巻き込まれたのだ。
やはり疲れているのだろう。二言三言別れの挨拶をかわし、それぞれが帰途につきだした。
「篠塚さん、この後、空いていますか」
間宮の情報を一刻もはやく伝えておきたかった。篠塚は腕時計をちらとみて「これから人と会う約束があるんだ」といった。
「仕事ですか」
「いやちがう。……すまないが、明日にしてくれないか」
口をひらこうとして言葉を呑みこむ。篠塚の背後に貴子の姿がみえたからだ。貴子はいくぶん頬をふくらませ篠塚の背中をにらんでいた。瞬の視線に気づき篠塚が振りかえる。貴子の姿をみるなり肩で息をついた。
「マンションで待っていろと言ったろう」
「一時間も待っていたのよ。住人にも管理人にも白い眼でみられるし、やってられないわ」
会う相手というのは貴子のことだったのか。篠塚が瞬を見てきた。瞬は「お疲れさまでした」といって、歩きだした。
「瞬、まて」
疎外感に苛まれ声もでない。篠塚が靴音を鳴らし追ってきた。
「待てといってるだろう」
篠塚をみあげる。気遣うような表情だ。それすらも癪にさわる。いったい篠塚は瞬をどうおもっているのだ。
「隠すことないじゃないですか」
「おまえが気にするとおもったんだ」
「だったら」
ぼくは、なにを言おうとしてるんだ……。
貴子が傍にいる。みると、貴子はまるで珍しいものでも見るかのように篠塚と瞬を眺めていた。瞬の中でなにかが変わりつつある。北沢のせいだ。ホテルの部屋できいた、あの幼児をあやすような口調が厚かった感情の扉を徐々にこそぎ落としつつある。そんな感があった。
「帰ります」
足早に貴子の脇を通りすぎる。すれ違いざま貴子が「秘書って大変ね」と言ってきた。どういう意味なのだろう。深く考えたくなかった。これから篠塚のマンションで二人が会う。それだけで、ずしりとした疲労感が両肩にのしかかってきた。
「仕事ですから」
言って大股に歩きだす。篠塚は追ってはこなかった。
すでに陽が翳りだしている。気のはやい夕餉(ゆうげ)の香りが道の間に間に漂っていた。バッグを肩にかけ凍えた手をジャンパーのポケットに突っ込む。篠塚のぬくもりが恋しかった。家が近づくほどに昂ぶった感情がこみあげてくる。目頭が熱くなった。酒が飲みたい気分だった。
背後から車のクラクションが響いた。車がようやくすれ違えるような細い道だ。あわてて路肩による。運転席のウィンドウがさがり中から男の顔がのぞいた。
「篠塚先生と一緒じゃなかったんだ」
見慣れない車。北沢だった。近くのパーキングにでも停めていたのだろう。
「夕食、つきあってもらえると嬉しいんだけど。どうかな」
「………」
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