second scene21 | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

second scene21

 車は東名高速道路を厚木方面へと走っていた。
 瞬はかすかに溜息をついた。篠塚は何時ごろ合流してくるのだろう。本当に今日中に来てくれるのだろうか。
「篠塚先生は」
 北沢が流れる窓の景色に目をむけながら、つぶやくように言った。
「はい?」
「厳しいのかな」
「え」
「仕事」
「どうしてですか」
「先日、君は精神的に不安定なことろがあると感じたんだけど、ひょっとして、過去のトラウマとかじゃなく外因性のものがあるのかな」
「外因性?」
「つまり対人関係や職場でのストレス。上司とか、恋人とか……」
 恋人という言葉にどきりとする。
「よくあるんだよ。対外的にはすこぶる良いひとなんだけど部下には極度にわがままなひと。あるいは、社内ではコミュニケーションをとりたがらないとか」
「そんなことはありませんから」
 いい返しながら、自分のことを言われているような気がしてきた。まさしく、篠塚にとって瞬はそんな存在ではないのか。
「徳川くんは、逆に自己主張をしないタイプだよね」
「べつに僕は……」
「いや、そうなんだ。不思議なんだよ、君と篠塚先生との関係」
 胸がはやくなる。なにがいいたいのだ。
「なにがですか」
「嫌な気分にさせたらごめんね」
「……はい」
「どうして篠塚先生が君と気があるのかわからないんだ。むしろ君は、彼の一番苦手とするタイプのように思えるんだよ」
「………」
「まあ、それだけ君が部下として優秀だということなんだろうね」
 考えてみたこともなかった。いわれてみれば篠塚の周囲には瞬のようなタイプはいない。山岸、貴子、滝川……。篠塚がプライベートでつきあう人間は明瞭な自己主張をもっている。篠塚は無理をして瞬とつきあっているのだろうか……。
 やがて車は厚木インターチェンジで小田原厚木道路へとはいった。小田原西インターチェンジで高速道路をおり箱根旧道を三キロほど走る。ほどなくして目的の宿が見えてきた。東京の奥座敷ともいわれる箱根湯本温泉、その高台にたたずむ七階建てのリゾートホテルだった。

 


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