second scene10 | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

second scene10

「いま、お父さんとあってきたんだがね。仲人(なこうど)も二回目となると、なんだな」
 言って、間宮がポケットからシガレットケースをとりだした。カルティエのライターで煙草に火をつけ、うまそうに一服吸う。篠塚がテーブルの脇にあったガラス製の灰皿を間宮の前においた。
「よろしくお願いします」
「雅人くんは、いいのかい」
「父の決めた相手ですから」
「相手の息子はキエネの社員だって言うじゃないか」
「法務部の人間です」
「ややこしくならなければいいがね」
「………」
「今の専務、なんと言ったか、あの太った男」
「三木原ですか」
「なんでも、その息子、三木原がヘッドハンティングしてきたっていうじゃないか」
「……初耳です」
 篠塚がめずらしく戸惑いをみせた。瞬も驚いた。三木原は篠塚の祖父の代の時に父親がキエネの役員をつとめていた。三木原で二代目となる古株だ。その三木原がヘッドハンティングしたとなると、なおさら黒岩の存在が不気味におもえてくる。
 間宮が紫煙をくゆらせながら言った。
「情報は多ければ多いほど有利だ。ニューヨーク支社から本社勤務になった今、君は立場上、情報を入手できる立場にある。利用すべきは利用すべきだ。帰国してこの一ヶ月、君にむらがってくる社員は後を絶たないとおもうが、どうかね徳川くん」
 いきなり話をふられ、瞬は口ごもりながら「はい」と、答えた。
「いいかい、雅人くん。篠塚詣(もう)ではすべからく君の値踏みもかねている。次期社長としてふさわしいかどうか、この男について得なのか損なのか、自分の将来を任せるに足る人物であるかどうか……。先だっての吸収合併で社員は揺れている。キエネは上層部に欠員がでたらヘッドハンティングで優秀な人材を補充する採用方式をとりいれているね」
「そうです」
「旧ポラソニック派のみならず旧キエネコーポレーション派の人間も将来に不安を感じていない社員はいないだろう。そして、これは君にもいえることだ」
「わたし……ですか」
「かりに君よりも相手の息子のほうが優秀だと取締役会が認めたとしたらどうだろう。再婚したら、その息子もキエネの株を手中におさめることになる。いや、それでなくても社長の息子だ。……頭のいい君のことだ、先んじて考えているとは思うがね」
「はい。……いえ」
 これほど歯切れの悪い篠塚を、瞬ははじめて見た。間宮が眉をよせ煙草を灰皿でもみ消した。
「どうも君を見ていると野心がたりない。いいかね、雅人くん。ビジネスはパワーゲームだ。力のあるものが勝利をおさめる。ここぞという時には牙をむくことも必要だといっておきたかったんだ」
「………」
「なあ、徳川君」
「はい」
「君のボスは人が好すぎやしないか」
「そう思います」
 篠塚が慌てて「おい」と、口をすべらせる。間宮がしゃがれた笑い声をあげた。
「雅人くん、いいか」
「はい」
「敵に尻なんぞ捲くられるなよ」
 篠塚が失笑した。

 


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