永遠の森・博物館惑星 // 菅浩江 | みゅうず・すたいる/ とにかく本が好き!
永遠の森 博物館惑星 (ハヤカワ文庫JA)/菅 浩江
¥798
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 「永遠の森・博物館惑星 


 菅浩江、著。 2000年。



 ラヴ・ソングが聴こえる・・・・・・。

物語の途中から、懐かしいラヴ・ソングがどこかで

響いているようで・・・。



 

 地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館・・・

(アフロディーテ)。

そこには、全世界のありとあらゆる美術品、動植物

が収められている。

音楽・舞台・文芸担当の(ミューズ)、絵画・工芸担当

の(アテナ)、そして、動・植物担当の(デメテル)・・・

女神の名を冠した各専門部署では、データベース・

コンピューターに頭脳を直接接続させた学芸員たちが、

収蔵品の分析鑑定・分類保存をとおして、「美」の

追求に勤しんでいた。

そんな部門間の調停をつかさどるのが、総合管轄部署

の(アポロン)。

日々搬入されてくる物品にからむ、さまざまな問題に

対処するなかで、学芸員の田代孝弘は、芸術にかかわる

人びとの想いに触れていく・・・・・・。

至高の美とはなにか? 美しさを感じる人間の感情とは?

星雲賞受賞の俊英が抒情性ゆたかに描く、美をめぐる

九つの物語。

 (ハードカバー版、紹介文より引用)



 mokkoさんに紹介されて、読んでみました。

実は、それ以前からずっと気になっていた作品です。

「第32回星雲賞」「第54回日本推理作家協会賞」

「ベストSF2000国内編第1位」等、華々しい受賞歴

を誇る作品ですから・・・。


 眺めていると音楽が聴こえる絵画。

小惑星上で見つかった、色彩あふれる五角形の

金属板と種子は異星人のメッセージか?


 主人公孝弘は、巨大コンピューターとリンクした

直接接続者であり、膨大な記録を一瞬で読み取る

事が出来る。

 

 いわば、「神の知識」を有した人間なのだが、

一方では、直接接続者たちを統括する管理者でも

ある。


 常に、職員間の調停に忙殺され、イベントの管理や

苦情処理に追われる毎日を送っている。

忙しいエリート・サラリーマンのような存在でもある。


 最愛の妻とも、なかなかゆっくり話す機会もない

と言う、近代日本の商社マンのような生活ですね。

しかし、対象が「美」という抽象的なものであるだけに

彼の苦悩は深い。


 様々な、問題を処理するためにデータベース・

コンピューターに頼る内に、彼は徐序に大切なものを

見失って行くのだが、その事に気付かない。


 SF色の濃い設定。 そして情緒あるファンタジー作品

としての側面。 

ひとつひとつのエピソードも驚きに溢れています。


 しかし、難解な作品ではありません。

登場人物たちは皆、人間味溢れる魅力的な人物ばかり。

物語も、心温まるものです。


 毎回、彼女のことは話題になりながら、登場しない

彼の妻「ミワコ」。

彼女は、最後に少しだけ姿を見せます。


 そして、読者は気づきます。

SF? ファンタジー?

この作品は、ひとつのラヴ・ソングだったのだと言う事に。


 失いかけたものに気づく事。

抱きしめるべきものを失くさない事。

本当に大切なもの。


 それ無くしては、人生は空しい・・・。


 この作品がラヴ・ストーリーと言う訳ではありません。

それは、物語の裏にひっそりと隠れています。

そして、最後にそれは響いてくるのです。


 この作品は、ラヴ・ソングだったのですね・・・・・・。


 最後に、とても新鮮な驚きを感じた私です。