魚藍観音記 // 筒井康隆 | みゅうず・すたいる/ とにかく本が好き!
魚籃観音記 (新潮文庫)/筒井 康隆
¥420
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 「魚藍観音記」


 筒井康隆、著。 2000年。



 高校時代から、筒井さんは随分読みました。

その内容の過激さにぶっ飛びながら、随分熱狂した

時期があります。


 革命の幻想も破れ、シラけた時代に、爆弾を投げつける

かのような創作活動を続ける筒井さんは、文学の秩序を

破壊する過激な旗手として熱狂的ファンを生み出しました。


 断筆宣言までのほとんど全ての作品を貪るように

読んだのを懐かしく思い出します。

今は、かつてのように熱狂的ファンと言う訳では無いです

が、常に何冊かの著作が積んであります。


 しかし、かつて仇敵のように作品中で叩きまくっていた、

いわゆる文人風の佇まいを、今はご自分で体現している

のは、丸くなったのか・・・、文人が居なくなったので、

今度は自分で文人を演じているのか・・・。


 まあ、筒井さんの事だから、その理由もなにやら

イワクあり気ですが・・・。

氏は、確かに「調子乗り」の関西人気質も持ち合わせて

おられるようだし、・・・解らん!


 2000年に刊行された、この「魚藍観音記」は、実に

筒井康隆さんらしい作品集です。

表題の「魚藍観音記」は、西遊記を題材にした…エロです。


 孫悟空と観音菩薩が交合すると言う話ですが、

この見物に天界の神々ことごとく集まりて・・・、と言う

壮大な(?)馬鹿話。

筒井節が笑いを誘います。


 「市街戦」は、何故か交戦中の街のとある屋敷で

平然と撮影を続けようとするTVドラマの撮影隊。

非日常の中で、平穏な日常を演じる理不尽さが、

TVと言うマスメディアを風刺します。


 「ラトラス」は、SF仕立ての作品。

核により文明が崩壊した世界で、進化の途上の鼠の

雄が妹と共に手に入れた、埋もれたスーパーの食品売り場。


 食べきれない缶詰を擁したエルドラドに、王国を築こうと

した彼の思いは、「種の保存」などと言う高度な思考を

手に入れたばかりに破局を迎える・・・。


 「谷間の豪族」

妻の一族が住む「谷間の家」は、谷全体に及ぶ巨大なもの。

そこに、作家である彼と妻は引っ越すのだが・・・。


 このような血縁や地縁による巨大コミュニティと言うテーマ

は、筒井康隆氏が若いころから好んで繰り返し書いている。

今回は、集合による異常性や、個性の変容と言う重い

ドラマでは無いが、さらりと書いている所が却って怖い。


 恐怖譚では無いのだが、読後の少し不気味な感じが

なかなか良いです。

しかし、このテーマは、なにやら筒井さんのトラウマ的な

ものでもあるのでしょうか?


 この手の作品が多いですね。

う~ん、幼少のおりに田舎で苛められた経験でもあるの

でしょうか・・・。


 実に筒井さんらしい作品集を十分に堪能しました。

やはり、筒井康隆は面白い!