桜の森の満開の下 // 坂口安吾 | みゅうず・すたいる/ とにかく本が好き!


桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)/坂口 安吾
¥1,470
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 「桜の森の満開の下」



 坂口安吾、著。 昭和22年。



ここ数日、とても冷え込みが厳しくて、

冬の寒さが身に沁みます。

白い息を吐きながら、春はまだかと、

思いを巡らします。


 桜の頃を思う。

そう言えば、梶井基次郎氏の小説に

「桜の樹の下には」と言うのがあります。


 「この爛漫の桜の樹の下へ、一つ一つ

屍体が埋まっていると想像して見るがいい。」

そんな台詞がある。



ああ・・Myu’s Style / とにかく本が好き!


 満月の夜、桜の花の妖しいまでの美しさは

幻想的過ぎて、恐ろしく感じる程です。

ああ、確かにその樹の下には人の情念が

抱かれていても不思議では無い。


 この台詞の耽美的なイメージが好きです。

そして、坂口安吾の「桜の森の満開の下」。

このタイトルがすでにそれだけで、イマジネーション

を掻き立てる。


 作品の中身などいらない位です。

まぁ、そうも行きませんか・・・。



 鈴鹿峠に一人の山賊がいた。

街道を通る旅人の着物をはぎ、情け容赦なく

命を奪う。

 美しい女を見つけては、その亭主を殺し

女をさらう。 そして、自分の女房にする。

 六人の女房を殺し、七人めの美しい女

を前にして、男は何故か不安になる。

以前、桜の森の満開の下で感じたような

気持ちであった。

 この女は山中の暮らしが嫌で、都に帰りたい

と言う。 男はこの願いに応える。

都で、この女が欲しがったものは、「人の首」。

いくつもの首が集められ吊るされる。

 それでも、女はまだ新しい首が欲しいと言う。

男は、毎晩人を殺した。

 やがて、そんな暮らしが嫌になった男は

山に帰ると女に告げる。

すると、女も一緒に行くと言う。

 満開の桜の森を女を背負って歩いていると、

男はふと気づいた・・・。

背負っているのは、老婆の鬼ではないか。

 男は慌ててこれを絞め殺す。

しかし、その死体をよく見ると、それはやはり

女であった・・・。

 桜の森の満開の下を通るときの不安の秘密

は、誰にも分からないが、それは「孤独」という

ものであったかもしれない。



 さて、随分以前に読んだこの短編のイメージは

今もなお色あせずに心に残っています。

夜の桜の儚いまでの美しさは、時に妖しく怖い

ほどです。


 春を待ちながら、そんな事を思い出しました。

今年も、春になれば、近所の公園の満開の

桜の下を夜に歩きます。

もっとも、これは犬の散歩だから、あまり情緒も

ありませんが・・・。


 満開の桜の下を、奴らがわんわんわんと

駆けて行きます・・・、ああ・・・。