安倍晋三 『アベノミクス第二章 起動宣言』(2) | みおボード

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…翌年、岸内閣が発足すると、総理大臣秘書官を務めて祖父を補佐しています。
数年後には、我が国の戦後体制において大きな節目となる 日米安全保障条約の改定を控えていました。
この時、父は岸に対して「得意な経済で勝負しましょう」と強く進言したそうです。

実際、岸内閣ではその後の経済成長の礎となる重要な社会保障制度を次々と実現しています。
具体的には、国民皆年金制度(59年)や最低賃金法(同)、国民皆保険制度(61年)など、その後の日本社会の安定に不可欠となった制度ばかりです。
祖父は就任会見で、「汚職、貧乏、暴力の三悪を追放したい」と抱負を述べていました。

しかし、父の進言に対して祖父は こう答えたそうです。

「確かに経済政策は重要だ。しかし、同時に安全保障は国の基本である。
それはまさに戦争を体験している自分だからこそ、今やり遂げなければならない。 政治家以外には、誰もチャレンジできないのだから」

この社会保障制度の整備と日米安保という土台作りの上に、その後の池田勇人、佐藤栄作政権における高度成長があったことを忘れてはならないと思います。

岸内閣の安保改定から54年が経ちました。日米の絆を確立したことで、その後の平和と繁栄が実現したのです。
新しい安全保障法制のための基本方針もまた、日米関係をより一層強固にするものです。

<内閣総理大臣の責任>
その目的は、ただ一つ。いかなる事態においても、国民の命と平和な暮らしは守り抜いていく。内閣総理大臣である私には、その大きな責任があります。

日本を取り巻く安全保障環境は、一層厳しさを増しています。 北朝鮮のミサイルは、日本のほぼ全土を射程に入れている。
「今回の閣議決定によって日本の平和が脅かされる」と批判する人たちがいますが、では逆に、何もしなければ平和が守られるというのでしょうか。

私たちの平和は、平和国家という言葉を口で唱えるだけで実現するわけではありません。他人から与えられるものでもない。私たち自身で築き上げるほかに道はないのです。
そのために、現行憲法のもとで何をなすべきか。 それが、今回の閣議決定です。

「解釈で憲法改正してよいのか」といった誤った批判がありますが、自衛の措置をとる場合でも、それは、他に手段がないときに限られ、かつ 必要最低限でなければなりません。

現在の憲法解釈の基本的な考え方は、今回の閣議決定でも 何ら変わることはありません。
海外派兵は一般に許されないという従来からの原則も、まったく変わりません。 自衛隊がかつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことは、これからも決してありません。明確に申し上げておきたいと思います。

「日本が戦争に巻き込まれる」、果ては「徴兵制につながる」といった根拠のない不安を煽るような言説は、60年安保改定のときにも声高に叫ばれました。
しかし日米同盟の存在が、抑止力として日本と東アジアの平和に大きく寄与してきたことは、その後の歴史が証明しています。

今回の閣議決定もまた、歴史の評価に十分に堪えるものであると確信しています。
54年前と同じ不毛なレッテル貼りには意味はありません。実態に即した丁寧な説明を、国民の皆さんのさらなる理解が得られるよう、これからも続けていきたいと考えています。

<頑張れば報われる>
アベノミクスに対する理解も、当初は十分ではありませんでした。

「第一の矢」と名付けた徹底した金融緩和政策は、日本の伝統的なマクロ経済政策とは異なるため、ほぼすべてのメインストリームの経済学者から「できるわけがない」と猛反発を受けました。
否定的な声は日銀などからも聞こえてきました。 金融緩和によってデフレから脱却することはあり得ない、という主張が大勢を占めたのです。

人口減少の国はデフレから脱却できない、という趣旨の本が数年前にベストセラーになったこともあります。
これは要するに「諦めろ」と言ってるに等しい。 その後、「成長しなくてもいいじゃないか」という考え方まで出てきました。

デフレ経済が続くと、持っている現金の価値が上がります。そうなると資産は手もとに置いておくのが一番いい。
つまり、企業レベルでいえば内部留保、個人レベルでは預金、あるいはタンスに眠らせているという人がずいぶん出てくるわけです。

この状態ではお金は循環しませんから、経済も一向に活性化しない。この停滞を打破するためには、まずデフレ経済から脱却し、資産を貯めこむよりも投資したほうが得であるという状況に導く必要がありました。そのための緩和だったのです。

企業には、この日本に どんどん投資してもらわなければなりません。
だからこそ、私は 三本目の矢の中でも、法人税率の引き下げにこだわっています。 こうした経済政策には、「企業寄り」という批判がありますが、働く場所をつくり、賃金を払っているのは企業なのです。

アベノミクスが始まって以来、有効求人倍率は 19ヵ月連続で上昇し、バブル崩壊後で最も高い水準になりました。
この春、多くの企業で給料がアップしています。 連合の調査では、平均2%を超える賃上げがあり 15年ぶりの高い水準です。

嬉しかったのは、中小企業でも6割が給料アップしたとの調査もあったことでした。 アベノミクスによって生まれた企業の利益は、確実に 人への投資に振り向けられようとしています。
「頑張れば報われる」— そうした自信を日本経済全体が、少しずつですが取り戻しつつあると感じています。

「安倍さん、そんな景気のいい話は 自分のところには届いていないよ」という声も頂戴します。
景気回復の風は、いまだ日本の隅々にまで行き渡っているとはいえません。 アベノミクスは大企業だけのものではありません。

すべての国民に行き渡るまで手を打ち続けます。ひとつの施策で足りなければ、更なる施策を打ち出します。
いまだ景気回復の実感を待っている国民の声に応えることこそが、これからのアベノミクスの真骨頂なのです。

とはいえ、20年近くも続いたデフレから脱却することは、そう簡単に実現できることではありません。
経営者は非常に慎重です。政治や行政と経営者が うまく共同作業を行わなければ、あっという間にデフレ脱却の機運は萎んでしまう。

私は、政府、経済団体、労働組合の代表者が一堂に会する「経済の好循環実現に向けた政労使会議」を立ち上げ、賃上げ要請を行いました。

最初は「そんなことやったって給料を上げる企業はない」と言われました。 ローソン社長(当時)の新浪剛史さんだけは政労使会議の前に賃上げ要請に応じてくれましたが、国会では「たった1社じゃないか」とずいぶんと野次られたものです。

これからの目標としては、賃金が毎年しっかりと増えていく状況を実現したいと考えています。
私たちは2%のインフレ目標を掲げていますし、消費税を引き上げたので、実質賃金という意味では、まだその賃金の上昇を実感しずらい状況であることも事実です。

消費税増税は 伸びていく社会保障費を国民全体で負担するためですが、賃金アップが今年一回限りではなく 継続して上がっていく状況になり、消費の力強さが増税を乗り越えていけば、経済の好循環は 一段と力強いものになっていくと確信しています。

<故郷を守っておくれよ>
小規模事業者の皆さんや地方への波及が、これからの最大の課題です。そこに光が届いていかない限り、いかにGDPが成長しても、アベノミクスは成功とは言えない。

20年以上も前ですが、最初の選挙に出たとき、私が通りかかると ひとりのおじいさんが農作業の手を休めて、私のところに駆け寄ってきて こう言いました。

「安倍さん、どうか故郷を守っておくれよ」
この言葉は、今でも私の胸に刻み込まれています。こうした農山村や離島に住んでいる皆さんが、森を守り、水を守り そして美しい国土を守ってきたことは間違いありません。

これからは地方が成長する活力を取り戻していく正念場を迎えます。 そのため私は「まち・ひと・しごと創生本部」を立ち上げ、新たに担当の大臣を置くことを決めました。
「成長、成長」と呪文のように唱えていても物事は動きません。確かな結果が出るまで相当大がかりなことを断固として、継続的に実行していくつもりです。

金太郎飴のような町を創っても しょうがありません。 「中・東京」や「小・大阪」は、もはや要りません。

「本物のおらが町は、ここにしかない」。若者たちが、そう感じて 将来に夢や希望を持つことができる、魅力あふれる地方を創生する決意です。
そして、その鍵は 美味しくて安全な日本の食を支えている農業であり、地域に根をはって頑張る小規模事業者の皆さんだと思います。

これは 先日、従業員9人のメッキ工場を訪問したときにも実感したことです。
この会社の若社長は、リーマンショック後の厳しい状況にあっても「従業員を大切にしろ」という父親の遺訓に従って 従業員を首切りせず 自分の給料を減らし、歯を食いしばって雇用を守りました。
そして、中卒で入ってきた従業員を夜間高校に通わせ、彼らをきちんと卒業させた。

おそらく、そういったことが工場の雰囲気を変えたのでしょう。従業員の創意工夫から生産性が飛躍的に向上したそうです。
この企業は高度な技術を持つ人材の力で、大手企業も真似できないような極薄のメッキを作っています。
若社長は、「もともと独自の技術があるから、生産性を高めただけで従業員に給料をドンと出すことができた」と誇らしげに語ってくれました。

このように頑張る小規模事業者の皆さんが、日本経済の屋台骨であり、日本の底力そのものだと考えます。
政府も、頑張る皆さんがもっと元気になることができるよう、ものづくり補助金を使って 新商品の開発や設備投資を応援していきます。
本年度からは、商業やサービス業の皆さんにも使っていただけるようにしました。 どんどん新しいことにもチャレンジしてほしいと思います。

<父が好んだ吉田松蔭の言葉>
農業分野では、「農業・農村全体の所得を倍増しよう」と目標を掲げています。そのためには農産物の輸出を拡大し、輸入品に負けないように、これまで以上に国内でも買ってもらえるようにする努力が必要不可欠です。

今まではそもそも農水産品を輸出しよう、というマインド自体がありませんでした。 あるいは付加価値を高めて農産品をブランド化しようという意識も薄かった。

やるべきことはたくさんあります。 どうやったら農産物を輸出できるようになるのか、消費者のニーズはどこにあるのか、どうしたらより高く売れるのか、ブランド化するために必要なプロセスは何か…
若い人たちが自分の情熱や努力で 農業の新しい地平を開いていけるように、農業を変えていきたいと考えています。

そのために、40年以上続いた いわゆる減反政策の廃止に加え、60年ぶりに農協の抜本改革に手をつけました。
これにより、今までの形の全中(全国農業共同組合)のあり方は廃止していくことになります。

「踏み込みが不十分ではないか」との批判も耳にします。 しかし、過去には踏み込むどころか、そもそも立ち入ったこともなかった。口にすることすら憚られました。
私たちは農業が大切だと思うからこそ、農業分野の改革に踏み込んだのです。安倍内閣の改革には、タブーも聖域もありません。

亡き父 晋太郎は、「志定まれば、気盛んなり」という吉田松蔭先生の言葉を好んで使っていましたが、私も、従来は「聖域」と呼ばれ、既得権が確立した世界にも、必要と考えれば、躊躇なく切り込んでいく覚悟です。