安倍晋三 『アベノミクス第二章 起動宣言』(3) | みおボード

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農業については、それ以外の産業と比べて GDPに占める比率が1、2%しかないのに 残りの98、8%を犠牲にしていいのかという議論がたびたび繰り返されます。

これはまったく間違った認識です。世界の先進国を見渡せば、どの国も農業を手厚く保護している。農業は国の基であるという認識は万国共通なのです。
しかし ただ守るというだけでは、20年後 30年後の農業の未来を最終的に描くことはできないでしょう。

青森県津軽地方の黄色いりんご「トキ」や 大分県の「日田梨」など、すでに海外で人気のブランド作物はあります。
こういった商品を育て、海外に市場を開拓していく「攻め」の農業に転じていくことが必要です。

漁業では新しい動きが出てきました。 いま、ベトナムで北海道 根室産のサンマが大人気なのをご存じでしょうか。

日本では これからサンマの旬を迎え塩焼きが楽しみな季節ですが、ベトナムでは もっぱらトマト煮だそうです。
地元の漁協や商工会議所が一丸となった売り込みの成果が、成長産業として世界に羽ばたこうとしています。

地方も 日本の中にとどまることなく、世界に飛び出していくべき時代がやってきたのではないでしょうか。
地域の名産品、ブランド品にはいいものがたくさんありますが、まず知ってもらわなければなりません。 国としても、全国のみならず 世界に知らしめていく過程でお手伝いしたいと思っています。

<アベノミクスは第二章へ>
アベノミクスは単なる景気対策に留まるものではありません。デフレからの脱却が確実に視野に入ってきた今こそ、少子高齢化といった構造的な課題にも真正面から向き合い、
10年、20年先を見据えながら、日本の社会の有り様 あらゆる制度や慣習を作り替えていく。
アベノミクスは、いよいよ第二章へと移るときです。

もはや日本は人口減少の問題から逃げることはできません。
ではいかに克服するか。政府内にも様々な異論・反論がありましたが、「人口1億人を切らないようにする」という目標を明確に掲げることにしました。

人口の目標を設定すべきではないという意見には一理あるものの、もうそんなに悠長なことを言っていられる状況ではない。
人口減にともなう日本経済の地盤沈下は、現実性を帯びてきているのです。

しかし、絶望する必要はありません。 夫婦に対する調査では、子供は現実には平均1、7人しかいませんが、理想の子供の数は2、4人です。
様々な障害を取り除き、それぞれの夫婦が理想を実現できるようにすれば、人口減少の問題も克服できる。
第3子以降に特化して重点的に支援していくことも考えるべき時代がやってきたと思います。これまでとは次元の異なる大胆な政策を、しっかりと肉付けしていきます。

とりわけ重視しているのは、子供の目線です。 児童虐待の悲しいニュースが相次いでいるようでは、人口減少の克服など絵にかいた餅です。
すべての子供たちが 笑顔で暮らせるような日本を取り戻さなければならないと考えています。そのためにも、家庭や地域の絆を再生していかなければならない。

かつては、どんな地域にも町内会のふれあいがありました。家庭も3世代同居が当たり前。
子供たちは 地域の大人達や祖父母の愛情を受けながら、成長していくことができました。核家族化が進んだ現代では、並大抵のことではありません。

7年前に「放課後子どもプラン」をスタートしました。これは地域の人達と共に子供達の居場所をつくる、地域子育てのモデルです。こうした動きを全国で展開していきたいと考えています。

大家族で支えあう価値を、社会全体で改めて確認することも必要でしょう。
社会保障をはじめ、あらゆる社会システムにおいて、例えばその負担を軽減するなど大家族を評価するような制度改革を議論していきたい。

最近では、二世帯住宅でも入口から別になっている独立型のものも出てきています。こういったものを政策的に応援することも一つのアイデアです。
3世代の近居や同居を促しながら、現代版の家族の絆の再生を進めていきたいと考えています。

子供たちには無限の可能性が眠っています。 その努力次第で、プロサッカー選手にも、お医者さんにも、デザイナーにも、もちろん政治家にもなれる。
6・3・3・4制の単線的な教育制度では、多様な価値に対応できません。複線的な教育制度へと改めていかなければなりません。

いじめや発達障害など様々な事情で 学校に通えない子供たちがいます。
不登校の子供たちがいるという現実から目を背けることはできません。そうした子供たちが、フリースクールなど多様な場で、自信を持って学んでいけるような環境を整えていきたいと考えています。

子供たちの輝かしい未来が、本人の努力以前に、家庭の経済事情によって失われてしまうようなこともあってはならない。
子供の貧困は、頑張れば報われるという真っ当な社会の根幹にかかわる深刻な問題です。誰もが、希望すれば高校に進学し、大学にも進学できる。給付型や返還免除型の奨学金を充実していくことも必要でしょう。

学校で放課後や土曜日に学習支援を行うような取り組みも、全国に広げていきたいと考えています。

「できないことへの諦め」ではなく、「できることへの喜び」を与える。そのためにも、教育の再生はこれからも力強く進めていきます。

<誰にでもチャンスあふれる日本>
誰にでもチャンスがあふれる日本を創る。成長戦略において 私がもっとも重視しているのは、この点です。
経験豊富で元気な高齢者の皆さんもいらっしゃいます。一度失敗したけれども、その教訓を活かして再チャレンジしたいと願う人たちもいます。

誰もが思う存分活躍できる社会が実現すれば、しばらくは人口減少が続いたとしても、日本経済が活力を失うことはないでしょう。
そのために私たちが強力に推進しているのが、女性が輝く社会の実現です。

保守政治家の安倍晋三が「女性が輝く社会」と言うと違和感を持つ方がいらっしゃるかもしれませんが、従来のように社会政策としてではなく、私は経済政策の重要な柱のひとつと位置づけています。

これまで人材資源として十分に活かされていなかった女性の皆さんは、言ってみれば“宝の山”です。
女性が企業の役員といった指導的な地位にも立つことで、組織にダイバーシティ(多様性)が生まれる。様々なバックグラウンドを持つ人材が、互いにいい刺激を与えあうことで 企業はより強靭になり、クリエイティブになっていきます。

ですから、女性が働きやすい環境を創ることは 安倍内閣の最大のチャレンジだと言ってもいいでしょう。
「小1のカベ」も含めて、この国から「待機児童」という言葉をなくしていくことを目標に、すでに動き始めています。

安倍政権が発足してからの1年間に53万人の女性が 新たに仕事を始めているという統計があります。これまでの水準と比較すると、この数値自体も画期的なことです。
政府においても、来年度から 公務員採用の3割以上を女性にすることを決定しました。 能力ある女性の皆さんに、どんどん日本を引っ張っていってもらいたいと思います。

出産などを機に仕事を辞めて、家庭に専念してきた女性もたくさんいらっしゃいます。
子育ても ひとつの立派なキャリアだと、私はかねがね申し上げてきました。ぜひともその経験を社会で活かしてほしい。
「子育て支援員」という新たな資格をつくり、子育て経験豊富な女性の皆さんに、保育の分野で活躍してもらいたいと考えています。

<この道しかない>
1昨年の総理就任後、私は実に47ヵ国を訪問しました。各国で実感するのは、日本経済に対する関心の高さです。

米国でも欧州各国でも、我々の経済政策について様々な質問を受けます。

少子高齢化、デフレ脱却、どの政策課題も先進各国が頭を悩ませている共通の問題ですから関心が高い。しかも財政再建まで同時に達成することが求められている。
ですから、日本人がいま 歩みつつある過程を世界が注目しているのです。

大きく報じられないことも多いですが、いま海外の首脳や米上院議員など、日本を訪れる要人の数は飛躍的に増えています。
ときには週2回も首脳会談や晩餐会のスケジュールが入ることもある。これは歴代の首相を振り返ってもあまりないことです。
世界中の人々が、国際社会に日本がカムバックしたと 認めている証左でしょう。

安全保障の法的基盤の再構築についても、国際社会に対して丁寧に説明することに力を入れました。
これまで安全保障に関しては、どちらかといえば「あまり話題にされないようにしよう」というのが日本政府の姿勢でしたが、我々がやろうとしていることの意味については、誤解を招きやすいことでもあり積極的に説明をしました。

その国々の言葉に訳したペーパーをお渡しするなど、各国を訪問するたびに、こちらの意図を理解、支持していただく努力を重ねてきたのです。

7月、オーストラリアを訪問した際に 忘れられない出来事がありました。
オーストラリア議会にて、私はかつて 第二次世界大戦中に命を失ったオーストラリアの若者たちに心から哀悼の意を表し、痛切な反省をもとに 日本が平和で民主的な国家を築きあげたことを申し上げました。

その上で、基本的価値観を共有する日豪両国が、歴史の試練に耐えた信頼関係を経済、安全保障といったあらゆる分野で「特別な関係」に進化させるべきであると訴えました。

私が演説を行なった後、アボット首相が大勢のメディアを前にこう語ってくれました。

「日本はフェアに扱われるべきだ。70年前の行動ではなく、今日の行動で評価されるべきだ。
日本は戦後ずっと 世界において第一級の市民として貢献し、法の支配のもとで行動をしてきた。
私たちは、過去ではなく、この今の日本を評価すべきだ」
この言葉に 私は本当に胸が熱くなりました。

2020年には東京でオリンピックが開催されます。
2回目の開催となる6年後は、何を目標にすべきでしょうか。
「黄昏を迎えているとまでいわれた日本」から再生し、自信を取り戻しつつある私たちは、2020年、世界の平和と繁栄のために貢献していく強い意思を持つ国の姿を、世界に示していかなければなりません。

私たちの誇りと豊かさを取り戻すことができるのは、他の誰でもありません。私たち自身です。これまでの1年8ヵ月の努力は、確実に成果を生み出しています。

この道しかありません。 これからもこの道を、国民の皆さんと共に歩んでいきたい。
私も気を引き締めて、初心を忘れずに「日本を取り戻す」ための歩みを進めたいと考えています。
(文藝春秋9月号)