青山繁晴 『われら国民、新政権に何を期すべきか(1)』 | 打倒安倍を叫ぶ紳士淑女+老人達を微笑ましく見守ろう♪♪

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時間をかけて、正攻法で圧勝しましょう♫

「なぜ戦争をしたかより、なぜ負けたのかを初めて問う」政権になってほしい。願いはその一事だ。

それは衆院選の公示が間近に迫る2012年11月後半のことだった。自民党の安倍晋三総裁は、経団連の米倉弘昌会長と向かい合っていた。総選挙で自民党が政権復帰する可能性を踏まえてセットされた、非公開の場であった。
米倉会長は「あなたの改憲論は、周辺諸国を心配させている。自衛隊を国防軍にすると公約するなんて… もっと和らげるか、撤回するかしてもらわないと、日本経済にも悪影響がある」と発言した。
同席していた誰の耳目にも、「周辺諸国」とは主に中国を指すことは明らかだった。米倉会長は住友化学の会長でもある。住友化学は、もはや撤退はあり得ないほど深く中国に入り込んでいる。

だが安倍総裁は「周辺諸国って、どこのことですか」と、あえて聞き返した。米倉会長は一瞬、答えに窮し、そして「いや、たとえば、フィリピンとか」と答えた。「中国だ」と、ありのままに答えることを躊躇したようにみえた。同席者には失笑を漏らす者もいた。それも一人ではない。
安倍総裁は米倉会長を追い詰めた。「フィリピン?フィリピンはむしろ、日本の憲法改正を歓迎して待っていますよ。中国の脅威に苦しんでますからね」
米倉会長も苦り切った表情を露骨に返した。その時から、安倍総裁に対して金融緩和であれ何であれ、強い批判を繰り返していく。 国民やメディアのなかには「なぜ次期首相かもしれない安倍を、ここまで論難するのか」と不思議に思う空気もあったが、この会合で恥をかかされた米倉会長の意趣返しであった。

安倍総裁は会合のあと、「財界がここまで介入していいのか」と憤った。根底にあるのは、日本が敗戦国のままでいて、かつ資源のない国であることを むしろ権益としてきた、戦後70年近い経済界のあり方への問いであった。単なる政治介入の是非ではない。
この米倉会長は、世論調査で自民党圧勝の予測が確たるものになると突如、安倍礼賛に転じた。権力に擦り寄っただけではなく、敗戦後の歴史と、これからの日本をめぐる根本的な議論になるのを避けることにも、その変身の狙いがあったと、わたしは考える。これは第二次安倍政権の今後を考えるとき、象徴的な、そして隠されたエピソードである。

会合での論争はその後、意外なところで、いわば結着をみた。当のフィリピンのデルロサリオ外相が12月10日付の英紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』のインタビューで、日本が再び正規の軍隊を持つことについて聞かれ「強く歓迎する」と述べたのである。FT紙は「日本の国軍保有に対するアジア諸国の支援は、安倍氏を改憲に向けて勇気づけるだろう」と論評した。比外相もFT紙も中国の脅威を念頭に置いている。
自民党が、非公開の会合のやりとりをフィリピンに連絡したわけではない。日本では依然、「右翼がかっている」とみられがちな国防軍への改組が、中国の貪るような膨張主義に晒されているアジア諸国では、朝鮮半島を例外として、時代の要請に合っていることの表れだ。

だが総選挙では、この国防軍構想はマスメディアによって「名称変更」の問題にすり替えられた。たとえば尖閣は護れるか、このたった今の領土危機を直視して防衛力の中身を問うからこそ、改憲が選挙の焦点になるべきだったが、「名前を変えるだけなのになぜ改憲が必要か」と、意図的に逆さまにした論調が選挙報道で支配的になり、そして自民党みずからが、このすり替えを黙認したのだった。
ほんとうは名称どころの話ではない。 自衛隊は、想像を絶する不条理を抱えている。諸国の防衛力は必ず、将兵が「ネガティブ・リスト」を持つ。 つまりは、「これだけはしてはいけない」リストである。捕虜となった敵はもはや殺すな、苦しめるなということをはじめ 特定の禁為以外は、国民と国家を護るために常に何でもやらねばならない。
ところが自衛隊だけが「ポジティブ・リスト」を持つ。世界の孤児である。 「これだけはしてもいいよ」、すなわち特定の法に書かれた特定のこと以外は、何もしてはならない。防衛庁(現・防衛省)の本庁を自ら護ることすらできなかったから、9・11同時多発テロで脅威が高まると慌てて自衛隊法に「自衛隊は防衛庁を守れる」という趣旨を追記した。 それまではどうしていたか。

わたしは共同通信の記者時代に防衛庁担当となり、初めてその正門をくぐったとき一驚した。警察の機動隊が展開していたからだ。すぐに筆頭局長の防衛政策局長をそのまま訪ね、名刺交換がわりに「世界の国防省で警察に守ってもらうところはありませんね」と問うと、局長は苦笑しつつ、「そう。先ほど110番したんですよ。危機情報があったから」と答えた。苦笑で済む話ではない。

もしも、ある自衛官が故郷の新潟に休暇で帰っていて、横田めぐみちゃんが拉致される現場に遭遇し、北朝鮮の工作員を殴って工作員が死亡すれば、彼は諸国では英雄だが日本では殺人か傷害致死で少なくとも強制捜査される。ポジティブ・リストに、そんな救出は載っていないからだ。 いや、自衛隊だって防衛出動を閣議決定すれば戦える、という説がある。笑止千万だ。世界のどんな現場を歩いて、そう論ずるのか。
宣戦布告のあるような古い戦争を、この「閣議決定すれば」という自衛隊法は想定している。とっくに世界から過ぎ去った時代に、日本国と自衛隊だけが生きている。 拉致は、北朝鮮という主権国家が日本という主権国家の国民を襲った新しい戦争である。
9・11同時多発テロのあと、わたしは佐世保基地でアメリカ海軍の中尉に聞かれた。「自衛官はあれほど優秀なのに、なぜ夕方6時に制服を脱いだら、何もできなくなるのか。テロは朝9時から夕方6時までに、それも昼休みの1時間は除いて起きると、日本の誰が保証しているのか」。彼は嫌味も冗談も言っていなかった。 新しい脅威の時代に、日米同盟を本気で問うたのである。

これはもはや思想の問題ではない。右も左も関係ない。真ん中から現実を見るかどうかだけである。 9・11が起きるまえも防衛庁正門に衛兵はいた。しかし護ってはならないから木銃を持っていた。 本物そっくりの木銃である。そうやって国民に現実を隠してきたのだ。
かつて長期政権を維持していた自民党こそ、その主犯である。自衛隊を国防軍に改組するとは、この奇怪な嘘をやめ、国際法に基づいた正常な主権国家にすることに他ならない。 その論争を、今回の総選挙でもなお自民党は避けた。 マスメディアの愚民主義とも言うべきすり替えを利用した。 すなわち、財界や米倉経団連会長と実は共通しているのである。

<新政権の最大課題>
いったん無惨な辞任をした総理が、復活を遂げた例は、戦後史にない。再登板そのものが吉田茂以来であるが、吉田総理は社会党左派を嫌って、自ら総理の座を蹴っ飛ばしたあとに甦った。 追い詰められて辞任したあとの復活は、まったく初めてのことだ。日本の民意がこれを選んだのは、敗戦国、資源小国であることそのものを既得権益としてきた 旧来の政治経済では日本の希望は生まれないと、言葉にはならなくとも知悉(ちしつ)しているからだ。
これこそ新政権の最大課題だ。 なぜなら、自民党も民主党も「敗戦国利権」という、自衛隊の奇妙な現実と同じ、世界に稀なものを造りあげてきた共犯だからだ。自民と民主は一枚の紙の裏表だ。財界側が自民、労働側が民主、同じ利権を一体で手にしてきた。
自民から民主への政権交代劇の惨たる失敗は、それを証明した。敗戦国体制を終わらせねばならないと、日本の唯一の主人公である国民がついに気づく機会が訪れ、その機運が生んだのが第二次安倍内閣である。 新政権は政界再編を経ずに、この牢固たる体制を具体策で変えねばならない。 そこでわたしは、内閣を支えるインテリジェンスの高官に訊いた。

「経済の立て直しから始めて、アメリカと日本国民を味方に付ける戦略だということは、承知している。そもそも強い日本経済を取り戻さないと、アメリカも国民も聞く耳を持たない。オバマ大統領との初会談もTPPを筆頭に、経済が軸ですね」と、わたしが切り出すと
「その通り」と頷いてから、「実際は…TPPだけにアメリカの関心は集中している」と、水面下の日米交渉のようすを明かした。
「安倍総理は、関税を例外なく撤廃するのが条件なら交渉に入れない、と強調してきましたね。 しかし、なぜいつも、いつまでもアメリカの提案を受け身で考える立場なのですか。日本がアジアの民主国家のリーダーとして、新しい自由貿易構想を、こちらから提案すべきです。それこそ、第二次安倍政権ではないですか」
高官は、すこし考えてから胸ポケットに手を入れ、珍しくメモを取り出した。そしてメモをしつつ「なるほど、そうかもしれない」と言い、「実はアメリカが今後、いちばん難しい。韓国や中国が安倍政権の登場を予期して、徹底的にロビー活動をやったからね」と述べた。

これは、いわゆる慰安婦問題をめぐって、まずは韓国がオバマ政権に安倍総理への先入観を植えこもうとする動きを指している。
軍には若い兵士の群れがあり、売春は付きものだ。わたしはイラク戦争でもアジア人の売春婦を見た。 第二次大戦中、民間業者が「慰安婦」の名で募集し、それに応じて有償で売春した女性たちが、朝鮮人も含めて多数、実在した。
日本の敗戦後、これに「従軍慰安婦」という奇妙な名前を勝手に付けて「日本軍が朝鮮人女性を強制連行して、無償で売春させた」というストーリーをでっちあげたのは、なんと日本のジャーナリストたちである。

なかでも吉田清治なる人物が、自分は陸軍軍人の同時に朝鮮の済州島で 朝鮮人奴隷狩りをやったと1980年代に裁判で証言し、本にも書き、朝日新聞がこれを真実の告白として紹介した。
ところが韓国人記者の調査でも明らかな捏造と分かり、ご本人も捏造を認めた。 しかし韓国は、この「従軍慰安婦」を正しい呼び名として使い、広め、そして再び日本自らが「河野談話」を発出して、これを実質的に認めた。 自民党の宮沢内閣の河野洋平官房長官が「日本軍の強制連行」をほぼ認め謝罪した談話である。
第一次安倍政権では、「軍による強制連行という いかなる証拠もない」という答弁書を閣議決定した。第二次安倍政権は、菅義偉官房長官が さらに科学的に調査すると宣言している。 だが韓国側はさらに「従軍慰安婦」を「セックス・スレイブ、性奴隷」という英語に置き換え、野田政権時代にニューヨークの街頭に、「日本は韓国女性を性奴隷にしたことに謝罪していない」という巨大な看板を出した。
事情を知るよしもないアメリカ人が男女を問わず「セックス・スレイブ」という言葉に衝撃を受けて涙し、わたしは何人かから「日本は、ほんとうはそんな国なのか」と問われた。 韓国はこの「慰安婦」で、そして中国はいずれ「南京大虐殺」を持ち出して、安倍新政権が、日本を正当な歴史に位置づけることを阻止しようと動いている……
(新潮45今月号)

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安倍総理と米倉会長のお話は、2013年1月19日「たかじんnoマネー」でもお話されています。
動画は消される可能性がありますのでお早めにです☆
みおボードA-20130119たかじんnoマネー