『共同通信』から。



米政府当局者は26日、安倍晋三首相の靖国神社参拝について、オバマ米政権が「中韓両国の反発を招き、大きな国際問題になる」として、外交ルートを通じて首相に参拝を控えるよう求めていたことを明らかにした。米側の意向が無視された格好で米政府声明も「遺憾」などではなく、より批判的なトーンの「失望」を選んだとしている。

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この報道が事実とすれば、なぜ安倍総理はオバマ政権の意向を無視しても大丈夫と思ったのでしょうか。少し後知恵になるかもしれませんが、この問題について考えてみます。



そもそもオバマ大統領の外交思想はどのようなものでしょうか。ハーバード大学のウォルト教授によれば現在のアメリカ外交を担っている思想はリベラル インターナショナリズムとネオコンの連合体だと書いています。ネオコンはイラク戦争の失敗でかなり評判を落としましたが、リベラル インターナショナリズム派は今も健在です。



そのリベラル インターナショナリズム派に属するイアン ブレマーという人が現在の日中関係について『日経ビジネスオンライン』で次のように語っています。



「日本はアジアにおける米国の最大の同盟国で、この点について疑いの余地はありません。しかし、中国を巡る日米の利害は実はかなり異なります。ですからバイデン副大統領は防空識別圏の撤回を求めなかったわけですし、米航空会社に中国に対し事前に飛行計画を提出すべきではない、とも言わなかった。」



このようにブレマーは尖閣を巡る日中の対立に巻き込まれたくないという感じがありありで、おそらくはオバマ大統領も同じように考えていると思われます。



ただ饒舌なブレマーがこの対談で語っていないことがあります。それは在日米軍基地のことです。



これまで日本が在日米軍基地を維持してきたのは、その代わりにアメリカが日本を守るということが日米安全保障条約の根幹でした。ところが尖閣問題で明らかになったことはアメリカが基地を置いているにも関わらず、戦うことを嫌がり始めたのです。



では、アメリカが日本の防衛は日本に任せるとしてその分米軍基地を減らしてくれるかというとそれも嫌なわけです。



つまりオバマ大統領の外交の本質は、「アメリカ帝国は維持したいが、戦うのは嫌だ」という誠に勝手なものなのです。



そこで今回の安倍総理の靖国参拝に戻ります。



安倍総理は靖国に参拝する直前に普天間基地の移設にめどをつけました。これによってアメリカ帝国を維持したいオバマ大統領の望みを安倍総理はかなえてあげたわけです。



オバマ大統領は普天間問題で迷走した鳩山総理に嫌悪感を抱いていたはずですから、それを手堅く達成した安倍政権をそんなに強く批判できるはずが無いとの予想があったかもしれません。



そして恐らくその予想は間違っていないでしょう。つまり今回の安倍総理は普天間移設と靖国参拝を交換したのです。

追伸

この文章を書いた後に『産経ニュース』に面白い記事が出ていました。重要部分を抜き出してみます。

「また、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で進展があり、『日米関係が底割れする懸念はなくなった』(同省幹部)。そうした情勢から、首相は関係各国との多少の緊張の高まりにも耐えられると判断し、国のリーダーとしての筋を通して参拝した。」

「同筋は嘆息する。沖縄県の仲井真弘多知事が普天間飛行場の移設先の辺野古埋め立てを承認したら、オバマ大統領から入る予定だったねぎらいの電話も吹っ飛ぶとみられる。」

本当に国際政治はマキャベリスティックですよね。