アメリカには「アメリカ例外主義」という神から与えられた他の国にはない特別な役割を世界に対して担っているという独特な理想主義的な考えがあります。

 

この問題についてダニエル・ドレズナーは『ワシントン・ポスト』でトランプ氏が大統領になったことや、彼の中東からの移民を制限する大統領令などの行動でアメリカは例外主義を捨て去り普通の国になったと書いています。

https://www.washingtonpost.com/posteverything/wp/2017/02/01/america-the-unexceptional/?postshare=3951486011054494&tid=ss_tw-bottom&utm_term=.98c9344f1501

 

一方ピーター・バイナートはトランプ大統領になってもアメリカの例外主義は健在だが、オバマ大統領に比べてその内容が著しく変わったと『アトランティック』に書いています。

 

「オバマ大統領にとってのアメリカが例外である理由は部族やセクトを超越したアイデンティティを育むことであるがトランプ大統領の場合はアメリカが再び例外的になるためにはオバマの考えは危険な夢だから捨て去らなければならないというものである」

 

ドレズナーもバイナートもそんなに違ったことを言っているわけではなく、二人ともこれまで語られてきたアメリカの例外主義はトランプ大統領時代に弱まってくると主張していることでは同じみたいです。

 

そこで今回はトランプ時代のアメリカ例外主義というある種の理想主義がどう変わっていくかを私なりに考えてみたいと思います。

 

バイナートが『アトランティック』に書いた文章で、オバマ大統領が「私はケニヤからやってきた黒人の父とカンザスの白人の母との間から生まれてきた。・・・・・・この地球上の他の国で私の物語が可能であるとは思わない。」という演説を引用しています。

 

確かにこのことは事実かもしれません。

 

ただオバマ大統領時代の末期に無実の黒人が白人警官から無残に殺された事件が立て続けにおき、怒った黒人の若者が始めたBlack Lives Matter (黒人の命は大切だ)という運動が活発になりました。

 

ここで私は途方に暮れるわけです。なぜ最初の黒人大統領の任期中に「黒人の命は大切だ」という運動が起こったのでしょうか?

 

白人と黒人の人種的な融和がある程度成功したからオバマ大統領という黒人初の大統領が生まれたと私は思っていたのですが、現実は違っていたのです。

 

白人を含む有権者がアメリカの例外主義という理想主義でオバマ大統領が生まれたことは確かですが、アメリカの白人と黒人の葛藤は以前と変わらずに続いていたのです。

 

だからオバマ大統領が人種を超えたアイデンティティを訴えても実際は未だに黒人が「黒人の命は大切だ」ということを訴えなければならなかったのです。

 

そこでトランプ大統領です。

 

私はトランプ大統領が現実のアメリカにおいて人種的な葛藤が存在していることを素直に認めているように思えます。そしてその問題がさらに悪化しないように備えることがメキシコの間に壁を作ることであり、一部のアラブ諸国からの移民の制限なのです。

 

ところがアメリカのリベラル派の知識人は現在のアメリカに人種主義など存在しないし、あってはならないと思っているからトランプ大統領のやることに心底怒っています。

 

ただアメリカの例外主義で人種問題を解決できるようには私には思えませんし、トランプ大統領のようにアメリカには「人種問題」があることを現実に認めてそれが悪化しないようにすることも一つの対処法ではないかと残念ながら思っています。

 

このようにみれば人種問題に関することではオバマ大統領は理想主義的であり、トランプ大統領は現実主義的なのです。

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少し遅れましたが、プーチン・安倍会談について書いてみました。

 

私は以前からロシアのプーチン大統領が北方領土について「引き分け」を主張していたのは1956年の日ソ共同宣言で平和条約の後に歯舞と色丹の2島を返還することだと解釈していたのですが、今回のプーチン大統領の来日でわかったことですが、残念ながら領土問題はおもいっきり後退してしまいました。

 

プーチン大統領は「1956年の日ソ共同宣言は2島の日本への返還を想定しているが、どのような基礎の上で行われるのかは明らかではない。確かに共同宣言は発効したが、そこには平和条約締結の後に、とも記されている」と語っています。

 

この発言に関して東洋大学の薬師寺教授は「引渡しは主権を含むのか施政権などそれ以外にとどまるのか明確ではないというのだ」と解釈しています。

 

なぜプーチン大統領はこんなもって回った言い方をしたのでしょうか?

 

ちなみにロシア通である鈴木宗男氏や佐藤優氏もプーチン大統領は2島返還は受け入れるとずっと言ってきたのです。

 

『朝日新聞』の英語版に興味深い記事が出ていましたので重要部分を訳してみます。

 

「12月14日ロシアの主要なメディアは同日の朝日新聞に記載されていた11月に開かれた谷内正太郎国家安全保障補佐官とロシアのカウンターパートであるニコライ・パトゥルシェフの会談の内容を報じた。

  谷内補佐官はパトゥルシェフ補佐官に対してロシアが日本に北方領土を返還した場合に米軍の基地を置く可能性を示唆した。」

http://www.asahi.com/ajw/articles/AJ201612160060.html 

 

私は谷内補佐官のこの発言がプーチン大統領のパラノイアに火をつけた可能性があると思っています。

 

プーチン大統領がクリミアに侵攻したり東部ウクライナに対してちょっかいを出すようになった理由はそれまでロシアの勢力圏だと考えられていた地域(ポーランドやバルト三国)にアメリカの主導するNATOが拡大してきたからでした。特にウクライナに対して親露政権を倒して西側寄りの人物を擁立したのがプーチン大統領の我慢の限界でした。

 

イギリスのドミニク・リーヴェン教授は『炎に向かって』という本の中で「ウクライナの人口と工業と農業がなければ19世紀前半のロシアは大国ではなかっただろう」と書いています。

 

現在でもナショナリスティックなロシア人はウクライナは外国だとは考えていないのです。

 

そこで谷内補佐官がどういう理由で北方領土に米軍基地を置くという発言をしたかわわかりませんが、プーチン大統領にしてみたらそれは極東版NATO拡大に見えたに違いありません。

 

オバマ大統領とプーチン大統領の対立に谷内発言が重なって2島返還すら不可能になってしまったのです。

 

このような安倍首相の北方領土外交は彼の韓国に対する慰安婦外交と同じくらい悲惨な結果を日本にもたらしましたが、私はロシアの方がまだ救いがあると思っています。

 

なぜなら、韓国やロシアに対して安倍総理が働きかける最大の理由が両者の中国寄りの外交を修正させようとしているからです。

 

ただ韓国が中国包囲網に加わることはほとんど考えられませんが、ロシアは中国に対して潜在的な恐怖を感じているためにそれが不可能だとは思いませんが、一番足枷になっているのがアメリカとロシアの対立なのです。

 

ところがトランプ氏が大統領になることが決まり、彼の従来からの発言が正しければアメリカとロシアの雪解けの可能性が見えてきます。

 

そうなればロシアが中国と組んでアメリカと対抗する必要がなくなるためにロシアの中国寄りの外交を修正できる見込みがあります。うまくいけばロシアを中国包囲網に組み込める可能性も出てくるのです。

 

というわけで、ロシアとの領土問題は悲惨な結果に終わりましたが、そんなに悲観的にならなくてもいいのではないかというのが今回の感想です。

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アメリカのヘンリー・キッシンジャー元国務長官は以前から現在の東アジアの情勢をドイツでビスマルクが政権を握っていた頃の東部の情勢と重ね合わせて見ています。

 

最新作のWorld Order という本でも次のように書いています。

 

「日本と同盟関係にありながら中国とのパートナーであるということは、ビスマルクがオーストリアと同盟しながらロシアと条約を結びバランスを取ったことに似ている。逆説的にこのような曖昧さがヨーロッパでの力の均衡が柔軟性を持ちながら保たれた要因となった。そして透明性の名の下にそれを放棄したことが第一次大戦に結びついた。」

World Order p232 

 

確かにこれまではこのような曖昧な関係が東アジアにおいてうまく作用してきたことを私は否定しません。

 

しかしながら、現在中国が南シナ海や東シナ海で拡張的な動きを見せ東アジアで覇権をとる姿勢を明確にするとこの「ビスマルク」体制は力の均衡を喪失し、とても不安定になっています。

 

例えば、これまでアメリカの同盟国と当たり前に思われていた韓国やフィリピンが中国に擦り寄り、公然と両天秤政策をとることにも現れています。

 

おそらく彼らはアメリカの言うことだけを聞いていても自分達の国益を達成できないと考えた結果でしょう。

 

そしてオバマ大統領の口先だけのPivot政策では中国の拡張政策は全く止められませんでした。

 

アメリカ海軍大学のジェームズ・ホルムズ教授はオバマ大統領の「航海の自由」作戦は単なる「無害通航」にしかなっておらず、逆に中国の埋め立てを法的に認めてしまっていると痛烈に批判しています。

 

このようにニクソン大統領とキッシンジャーが作った東アジアの「ビスマルク」体制は存続の危機を迎えているのです。

 

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