つづきです

Y先生が高校生だった時のこと。
暑い夏の午後、Y少年は人気のないホームで電車を待っていました。帽子を目深にかぶってベンチに座り、眠るともなく目を閉じていると、向こうの方から足音が聞こえてきました。
やがて通り過ぎるだろうと思っていた足音はY少年の前で止まり、?と思い顔をあげてみると、そこには背筋のピンとした見知らぬ老人が立っていました。
そして老人はY少年にアイスクリームを差し出しました。
驚いたY少年はお辞儀をしつつ慌てて財布を取り出し、お金を渡そうとしました。
老人は「いりませんよ。そのお金で鉛筆でも買いなさい」と言ってアイスクリームを手渡しました。
Y少年はお礼を言ってアイスクリームを食べました。

後になって考えてみると、この老人がY少年の年頃だったのは戦時中で、アイスクリームも食べられず、勉強したくてもできなかった時代でしょう。
老人は僕にアイスクリームをくれたのではなく、遠い昔の自分にアイスクリームを手渡し、鉛筆を買うように言ったのだ
とY先生は思ったそうです。
それからは、勉強が大変だったりくじけそうになる時、いつもこの老人のことを思い出すのだそうです。

これから先、もしかしたら勉強が嫌になったり投げ出したくなることがあるかもしれないけれど、勉強がしたくてもできなかった人達、できない人達、そんな人達の思いも託されているんだと思ったら頑張れるんじゃないかな?

と、こんな風にはなむけの言葉を送ってくださいました。

娘はいたく心を打たれたようで、Y先生に教えてもらうことが出来て本当に良かった!と連呼していました。
こんな暖かい先生にめぐりあえて幸せだったな、と私もしみじみ感じました。
ありがとうございました。先生もどうぞお元気で。