黒猫:ええと、今月から毎月やるらしい〈黒猫の夜話または活字ラジオ〉の第一回です。こんばんは。以前に『黒猫の薔薇~』の文庫化のタイミングで5回連続でやったときにはたいへん好評をいただいたのだとかで、くだらないことを不定期で更新するのも失礼に当たるから、それならいっそこの活字ラジオをひと月に一回定期更新していこうじゃないかと、そういうことらしいです。そんなわけでどうぞよろしく。それにしても(作者を見て)忙しいと言いながらよくやるもんだ。
作者:まあ大したことをやるわけじゃないからね。
黒猫:あのね、僕を巻き込むんじゃないよ。キミは好きでやってるからいいのかもしれないが……。
作者:まあまあ。そのうちまたゲストで付き人呼ぶから。
黒猫:要らないって。
作者:え、付き人要らないの?
黒猫:そういう意味じゃないだろう。
作者:付き人はかけがえのない存在だけどゲストには呼ぶなってことだね?
黒猫:何か違う気がするけど、面倒くさいからまあいいや。で、今日は何をやるんだ?
作者:決めてない。
黒猫:はい? 何か報告することとかないのか?
作者:あ、来月に新刊が出るかも。僕が無事にゲラチェックを終えられれば、だけど。
黒猫:ほほう。それは、無事を祈るしかなさそうだな。タイトルは?
作者:『四季彩のサロメまたは背徳の省察』、過去にミステリマガジンに掲載された「青い春と今は亡きサロメ」、「朱い夏とふたたびのサロメ」ほか二篇の計4編で織り成す連作短編集だ。
黒猫:「忍さま」がついに降臨するわけか……。
作者:まあ、今の段階であまり内容に触れるのもいかがなものかと思うから何も言わずにおこう。
黒猫:元コピーライターとしてキャッチーに一言で煽ってくれ。
作者:無茶ぶりをするなよ……うーん、うーん、、難しいな。よし、これだ。

恋人に内緒で飼ってください。

黒猫:なるほどね……。多くは尋ねまい。
作者:まあ来月の話をすると鬼が笑うということで、それより今月から始めたことが二つあるんだ。一つはこの活字ラジオ。もう一つは、noteで毎月10日に「森晶麿ココダケ話」というのを始めたんだよ。(一つ前の記事にURLあり)
黒猫:よくそれだけ喋ることがあるものだ。
作者:喋る内容があるから喋るっていうのは間違っているよ。そんなものはない。家族だとか恋人に対して、伝えたい内容があるときしか喋らないというのは関係性として寂しいじゃないか。だから、読者に対しても、何にも伝えることがなくても、定期的に現れる場所を作ったというわけ。
黒猫:まあ大事なことだ。シンポジウムの語源は酒をともに飲むということでね、対話にはそもそも重要な議題なんかなくたっていいんだよ。
作者:黒猫って毎回そんなふうに七面倒くさく考えるんだな。君のせいで、君の性格が俺の作風だと思われるからけっこう迷惑なんだよな。
黒猫:な、何を突然……。
作者:ペダンティックとかって君の特徴であって俺は関係ないのに。あと付き人とイチャイチャゴロンゴロンしてるのも君がウジウジした奴だからであって僕のスタイルってわけじゃ全然ないのに、周囲は僕が作品発表するたびに今回はじれじれが足りないとか気にするわけだよ。これって君の問題だよね。
黒猫:……僕の問題かどうかと言う前にいろいろ言いたいことがあるね。まず、いま「ウジウジ」って言っただろ?
作者:(無視)まあしかし、最近は一年が早いね。ほとんど机の前にいるだけで時間が過ぎていく。一日くらい銅像になるバイトを兼任してもいいくらい。
黒猫:話題を変えすぎだ。
作者:お花見とか行った?
黒猫:いや、行ってないね。というかまだ咲いてないだろ。
作者:そうか、そうだった。もうそんなこともわからないくらい出かけていないね。君は花粉症だっけ?
黒猫:アレルギーの類はないな。
作者:それは何より。俺は毎年この時期くしゃみが出たり目がかゆくなったりするんだよ。
黒猫:それ、花粉症だな、たぶん。
作者:違う、絶対に違う。
黒猫:みんなそう言い張るらしいよ。
作者:でも俺は絶対に違う。
黒猫:……まあそういうことにしておこう。
作者:あ、そうそう。三月といえば先日、「トムライノイズ」という短篇をnoteにアップしたんだ。これは読者編集ミーティングという企画から生まれた短篇。面白かったのは、二十数名の読者編集者さん相手に意見交換していくプロセス。ああやって多くの読者の方が僕に何を期待しているのかを見ていくと、いろいろ発見があるね。(「トムライノイズ」のURLも一つ前の記事にあります)
黒猫:たとえばどんな発見があったんだ?
作者:たとえば通常、簡単に「男女バディもの」とか「じれじれ」とか「ごろんごろん」とか、僕の作品に求められやすい要素ってあるんだけど、具体的に耳を傾けていくとどうもそればっかりじゃない部分に僕の特性を感じている人がけっこういたりして、中でも「音楽」をテーマにしてほしいって意見が重なったりとか、面白い現象もあった。
黒猫:なるほどね。読者に育てられる作家。
作者:そんな感じだ。でもシンプルに考えられるようになるんだよね。挑戦的なことをやってやろうとか、そういうことの前に、まずは読者編集の皆さんが納得するものを書くっていうハードルがある。そのハードルはわりにこれまで自分のなかにあったハードルとは違った種類のものでとても新鮮だったね。
黒猫:進化があったと感じているのならいいことだったんだろう。
作者:この場を借りて言っておきます。読者編集の皆さまにはこの短篇を小冊子にしてお送りする予定です。具体的には4月~5月くらいを目安に作成してお送りする予定でおります。なお、読者編集のなかのある方にそのための表紙絵を依頼しておりますのでそちらもお楽しみに。それと、noteにアップしてある「トムライノイズ」は今月いっぱいで削除か、もしくは有料記事に変わります。まだの方はどうぞ今月中に。
黒猫:短篇を無料で公開する意味って何なのかな?
作者:まあ、スーパーの試食コーナーみたいな感じだね。美味しかったら次、よろしくお願いします、みたいな。
黒猫:ああ、なるほど。
作者:僕はね、あんまり自分のやってる試みの一つ一つに意味は求めないんだよね。とりあえずやってみればいい、失敗したらやめればいい。それだけのことじゃないか。
黒猫:それは珍しく同感だ。
作者:おっと、そんなことより、せっかく毎月の更新になったんだから最後に新コーナーに移ろう。
黒猫:そんなものを作ったのか。
作者:題して、「このアルバムのここがすごい」。
黒猫:音楽の話か。まあそれなら君は仕事中いつも音楽聴いているわけだからどんなに忙しくてもネタにはこと欠かないだろうね。
作者:そのとおり、音楽は仕事をしながら楽しめる究極の娯楽物だからね。では早速今月の一枚。
アフロディジア (初回限定盤)(DVD付)/ビクターエンタテインメント

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マーカス・ミラー「アフロディジア」。この人はベーシストなんだけど、まあとにかくすごいですよ、当たり前だけど、このベースの音がね。ここまでクリアで鋭く、同時に優しかったりもするっていうのは滅多にない。テクニックだけではここまで感動させられないと思う。ほかに何も言うことはない。背筋がピリッとするというか、眠くなった思考がうねりだす感じだね。

黒猫:ふうん。で、「ここがすごい」って言うのは? 具体的にどこがすごいんだろうか?
作者:ブラックミュージックの根源を探りにいく旅みたいなアルバムになってるんだけど、それをコンテンポラリージャズの世界で長く君臨しているマーカス・ミラーさんが今さらやるというのがちょっとした壮大なドキュメントになってる感じがするよね。ドキュメントでありハードボイルドでもある。非常に味わい深い一枚だね。

黒猫:なるほど。聴いてみよう。
作者:ベースギターになりたくなるよ、きっと。
黒猫:なれないだろう、ベースには。
作者:いや、僕は真剣にベースギターになってみたくなった。どぅん、どるぅん、どぅっどぅん~♪
黒猫:さて皆さん、この幸せそうな男はここに放置して、今夜はここまで。以前の5回連続みたいに濃い内容ではなく、こんな感じでゆるくいきます。
作者:最後に黒猫、ホワイトデーにどんなクッキーを作ったのか皆さんにご報告しておきなさい。
黒猫:は? な、なにを一体……。
作者:付き人に送ったクッキーだよ。気付いてるんだよ、君が先日、濃厚なバニラオイルの香りを漂わせていたことは。
黒猫:クッキーなんか焼いてない。パリから東京に届けるあいだに割れちゃうじゃないか。
作者:ほほう、僕はべつに「誰に」とは言ってないが、そのあげるお相手は「東京」にいるわけか、なるほどなるほど。
黒猫:……皆さん、この男の邪推は気に留めないように。それではお休みなさい。
作者:邪推ついでに一つ、割れるからクッキーを回避したということは、マドレーヌあたりかな?
黒猫:ノーコメントだ。ではさようなら。
作者:あ、こら逃げ……(口にガムテープ貼られる)