飼い主を探しています。

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飼い主を探しております。
毎月毎月ですみません。でもこれでしばらく空きます(予定)。
今回まで何とかお付き合いください。
今回ご紹介しますのは、『偽恋愛小説家』(朝日新聞出版)

偽恋愛小説家/朝日新聞出版

¥1,512
Amazon.co.jp

装画は、『村上海賊の娘』などで有名な平沢下戸さん。
装丁は、阿部ともみさん(Essand)。
この狙い澄ましたような構図、キュートなキャラクターたち。
きっと手を伸ばすだけですぐにあなたに懐いてくれるに違いあり
ません。

では、中身のほうも少しご紹介。

アマゾンさんに出ているあらすじをそのまま載せると…

「シンデレラ」「眠り姫」「人魚姫」「美女と野獣」という、誰
もが知っている恋愛物語になぞらえて、
新進気鋭のイケメン恋愛小説家が殺人事件の謎を解き明かしてい
く。

俺がニセモノだったら、どうする?

「第1回 晴雲ラブンガク大賞」を受賞して、華々しく文壇にデビ
ューした恋愛小説化・夢宮宇多。
その勢いを買われてか、恋愛小説のようにロマンティックな体験
談を持つ女性を実際に訪ねて話を聞く、というネットテレビ番組
のホスト役の仕事が入ってくる。
担当編集・井上月子の説得で仕事を請けることとなったのだが、
そこで出会った女性は、まさに現代のシンデレラのようなエピソ
ードを持つ女性であった。
しかし、夢宮宇多は話を聞くうちにエピソードの隠された真実に
気づいていく……。
その一方で、夢宮宇多の受賞作は亡くなった彼の幼馴染みが書い
たのではないか、という疑惑が浮上し、物語は意外な展開を見せ
はじめるが――。



といった話。

これを書き始めた頃は、まさかこんなに世の中がニセモノに溢れ
かえるとは思わなかったので、タイミングはいいんだか悪いんだ
かわからないが、結局、どんな小説も時代の呪縛からは逃れられ
ないということなのかなとも思ったりする。

一方で、最近世の中がニセモノか本物かにやけに敏感なのは、
自分たち自身のなかにもニセモノな部分があるからじゃないかな
んて思う。
あなたは会社員ですか? 学生さんですか?
会社員なら入社してすぐに名刺をもらいますよね。
でもその名刺の肩書きにふさわしい中身をともなったのは、
いつ頃からでしたか? きっと3年とか4年とか、あるいはもっと
かかっている。
じゃあその前のあなたは、肩書きから考えたら未熟なニセモノだ
ったのかもしれない。学生さんだって、まさに学生らしい振る舞
いなんて、卒業間際にしかわからないかもしれない。
僕はいつも自分がニセモノだなあと感じている。
ミステリの賞をとってデビューしたけれど、多くの人が恋愛の部
分で僕を評価していることからも、ミステリ作家としてはニセモ
ノなんじゃないかとよく自問する。
それ以前にコピーライターしていた頃も、名刺一枚で「今日から
君はコピーライターだ」となったが、まともにコピーがかけるよ
うになったのは、実際のところ2,3年後ではなかったかと思う。
その前のテレオペなんて、ずっとニセモノ感を抱いていたし、ニ
セモノのままやめたようなもんじゃないかな。
きっと誰もが自分のなかに潜むニセモノには敏感に気づいていて、
それでも生きて行くためにちょっとばかり見栄を張ったり無理を
したりしながら、どうにか今日を生き延びているんじゃないかと
思う。
そんなわけで、本書のアイデアのスタートラインは自分への皮肉
から始まったのだけれど、それがいつの間にか世相とシンクロし
ていったのが、書きながら面白かった。

まあそんなことはともかく、
テイストの話をすると、今までの僕の持ち味である恋愛の部分や、
物語解釈を活かしつつ、いつもよりダークだったりビターだった
りといった、わりにこってりとした味付けをしている。
グラフにすると、恋愛度、ミステリ度、薀蓄度が当社比的にはわ
りと高バランス高カロリーな作品なのではないかと思う。
先日発売された『ザ・ベストミステリ―ズ2014』に収録いただい
た短編も第三話に入っているので、読み逃している方は、この機
会にぜひ。

それと、物語解釈は、あくまで主人公・夢宮宇多が解釈したら
こうなる、というだけで、それが唯一絶対の解釈とかじゃないので
それを鵜呑みにしておとぎ話を読み返したりする必要はないんじゃ
ないかと個人的には思う。もちろん、それはその人の好きにすれば
いいとは思うけれど。

細かい話はまたセルフライナーノーツにでも書きますね。

最後にもう一度。
飼い主を探しています。
目印はきらきらした表紙。ぜひ本屋さんで手にとってみてください。
きっと飼いたくなること請け合いです。
ではでは
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少年よ、君が暗闇で思ったことを
僕が知るわけがないし
知りたいとも思わない
それに、白状しよう
今夜のビールはきっとうまい

その飢えと孤独について
吐きそうな怒りと悲しみを感じる人々がいて
それをさらりと受け流すニュースがいて
そう、それはいつもの現代的な
食卓的な、デスクトップ的な
トリミング的な、コピペ的な、アレなわけさ

けれどそのさらりとしたやり取りのなかで
どうしたって君の孤独の部分について
その表面的なばかりのニュースでさえ
触れずにはいられなかったくらいに
君の孤独は
今では立派に我々みんなのものなのだ

今夜のビールはきっとうまい

それはそう、きっと間違いない
どれほどの怒りをもってしても
自分の届かない世界の現実は
決して変えられないのだ

だからこそ僕はビールの酵母に訴えかける
いつしかお前たちの果てしない
目に見えぬ世界によって
かの者の体内に百億の孤独を与えよ

黄金色の見た目をしながら
かの者がずっと目を逸らし続けてきたあの
恐るべき孤独を与えよ

今夜のビールはきっとうまい

それは、いつしか恋人をはべらせて
笑顔でそれを飲むはずだった
少年のための、ここだけの祈りだ
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悲しいことがあるたび、そいつを首につけ
いつもどうしたらいいか分からずたたずんでいた
黒いスーツが似合うとか
君の首の白さだとか
今はどうだっていいのに

煙の匂いが途切れていたって
誰も気付かずに馬鹿騒ぎしてらあ

なんだ真面目なのは僕だけか
なんだ悪者は僕だけか
なんだお前たちの涙は

悲しいことがあるたび、そいつを首につけ
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