ジョンとメリーの物語【第三話】 | 地球人なりきりスーツ

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火星人である、うちの家族の通訳をしながら
地球人なりきりスーツを開発しつつ
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季節は初夏に向かっていた。


沖縄ならではの季語に
「うりずん」「若夏(わかなつ)」
という言葉があるが、まさに
その語感にふさわしい。


ちなみに沖縄では新しい年や季節の始まりに
「若」とい言葉を当てる場合が多い。



「うりずん」「若夏」ともに
梅雨入り前のシーズン。


沖縄の短い春の訪れともに「うりずん」が
やってきて、入道雲とともに「若夏」が
やってくる感じだ。






さて二匹の犬の物語。


実はジョンとメリーは、
あまり接点がなかった。

違う時代を生きていたのではなく、
いわゆる性格の不一致だ。

まるで離婚原因のようだが、
犬でもタイプが違いすぎると
相手のことをかまわないのかもしれない。


ジョンは、男気の強い軍人タイプだが、
メリーは自分を犬と思っていない天然系。

うまくいくはずがない。



ところが、ある日、小さな事件が
わが家の庭で起こった。



気がつくと塀の上に近所のボスネコが
うたた寝をしていた。

わが家は犬屋敷なのでネコが
入ってくることはないのだが、その日はボスネコが
巨体を反らせて寝起きの背伸びをしたとたん
わが家の庭に降り立ってしまった。

初夏の開放感がそうさせたのか
なにやら野心でもあったのか。

黄色い瞳に、まっ黒な毛。

威風堂々と舞い降りた姿は、
さながら黒豹のようだ。


すると、よせばいいのに好奇心の強いメリーが
のこのこと、このふいなちん入者に
挨拶をしに行った。

くんくん匂いをかぎながら、
不用心に近づくメリー。

(こんにちは、きみは誰?)

近寄らないでよ「フーッ」とボスネコは威嚇する。



まったく通じず、鼻面を向けるメリーに、
必殺のネコパンチが炸裂!

(あんたなんか、キライ)

くるりと向きをかえ、しっぽを巻いて
逃げてくるメリー。



「もう、お前はよー」と
呆れ声をだしつつメリーを招き寄せると
その鼻さきから、つつっとまっ赤な鮮血。

恐るべしネコパンチ。
メリーが鼻血ブーだ。



その一部始終を見ていたジョンは、
いつもなら黙殺するのだろうが、
この日はむっくりと起き上がり
ゆっくりとボスネコに近づく。


縄張り意識か、メリーの仇討ちか。

ボスネコの顔にさっと緊張が走り、
姿勢を低くして身構えるが、
逃げる素振りは見せない。

逃げたところで背中を見せてしまったら
ジョン相手ではひとたまりもないことに
気がついているのだろう。


(相手はいちおう飼い猫だし、
 あまり乱暴はすんなよ……)と思いながら見守る。


至近距離からにらみ合うボスネコとジョン。

ジョンはやる気か?
本気を出したら相手が死ぬかも。

不安がよぎる。
時間が止まったように動かない二匹。



かぽっ。


突然、ジョンがボスネコの頭を丸ごと噛んだ。

というより口にくわえた。

ボスネコは首なしネコさながらに、じたばたしている。

軽く首を振り、ボスネコを軽々と投げ飛ばす。


すたっと着地するボスネコ。
無傷のようだ。
ネコでいうところの甘噛みの技だろう。

ぶるぶるっと首をふり、
ゆっくりと塀に飛び乗り引き上げて行くボスネコ。

去り際にちらりとジョンを一瞥。

(ふん、今日のところは見逃してやるよ)

人間だったら、きっとそう言っているに
違いないような表情を残して、塀から向うに飛び去る。



ジョンは何事もなかったように庭の中央に戻り、
あぐらをかくように、どっかと座った。


今よりも、ずっと青い空には、
今よりもずっとずっと白い雲が泳いでいた。







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