レンジと言う単語を良く使う。

ま、「帯域」という意味である。


スネアで言えば、低域までは伸びておらず、

高域は、ヘッドの張り方でかなり伸びる。

バンドサウンドの中のどの辺の帯域にスネアを定位させるか?

スネアは非常に目立つ音で、常に中心で鳴っている楽器なので、

ドラムのチューナーとしてはこの辺が一番気を使う。


昨日、ちょっと書いた、メタルにおけるスネアサウンドの変遷は、

ドラムを取り囲む音の環境の歴史的な変化という視点でみると、

非常に面白い。


ハードロック、例えば「バーン」あたりのディープ・パープルの

イアン・ペイスのスネアの音は、比較的高くてドライな、

わりと当時としては普通のロックの音である。

録音の手法も、普通にエアーの音も混じえて録音されていて、

空気感もある。

まあ、これも当時としては普通の音。


少し経ってメタルという言葉を聞くようになってからのスネアサウンドは、

「ド」とか「ドス」っという音が主流になって行く。

タムの音もイアン・ペイスあたりの「ドゥーン」から、「ドゥッ」

あるいは「ドゥッウーン」。


ドラムを取り巻く環境の変化で言うと、

リッチー・ブラックモアの音は、実はそれほど歪んでいない。

けっこうブルースロックの音で、アンプを見ても

そう高域が伸びるタイプではない。


メタルでは、ディストーションなども開発されてより歪む。

歪むと何が起きるかと言うと、高調倍音が増える。

ストンプボックスでの歪みは多くは奇数次の高調倍音が増える、

と言われており、これは「ジャー」っと耳に刺さるような倍音である。

真空管の歪みでは、偶数次の倍音が増え、こちらは印象は温かい。


ま、いずれにしてもギターに含まれる目立つ倍音が高域まで伸びて来た。

しかも音量も上がった。そこで何が起きたか?

たぶん、以前のままではスネアは聞こえにくくなったのである。

いわゆる「レンジがかぶった」。


さあどうしようか。

スネアのレンジを下に逃がし、スナッピの音も最大限に生かすことにした。

ローピッチにして高い倍音は切った。

普通考えると、これではヌケが悪くなり、音量も下がる。


しかし、上手くしたものでライブのPA、レコーディング技術が進んで、

マルチマイク化が進んだ。

上記のようなローピッチのスネアは、音量が小さいのでトップマイクに

あまり乗らず、ONマイクの音が、スネアらしい。という特徴がある。

ゆえに音量は下がるが、PAシステムを通ると、むしろ音が近くなる。

これはローピッチのタムも同じ事である。


これによって、高域に伸びて来たギターのレンジから逃げ、

しかしヌケはむしろ良い。という状態になり、

ライブでも、レコーディングでも、どちらもデカク出せるようになった。


レンジが重複すると、必然的に優先順位の低い方は小さくされるか、

遠くに追いやられる。

女性ボーカルの後ろでハイピッチのキンキンしたスネアでドラムが叩いている。

これはドラムが必ず、遠くにやられる。

か、ボーカルが何を歌っているのか、

サッパリ分からないライブになるか。である。


ま、PAのエンジニアなら、どうしようもないのだが、

関係者は「歌出せ、歌出せ。」と無理難題を言ってくる。

という切れかけ体験があるはずである。

ボーカルに声量があれば良いのだが、それも無い場合も多い。


もとい。


ま、こうして90年代ぐらいまでのメタルのドラムのサウンドは出来た。

ゲートリバーブも当然、多用された。


だが、残念な事に時代は変わる。

「こんなんじゃ満足出来ねえぜ!」という若者は必ず現れ、

これに追従して、アンプもシステムも開発され、

ギターの音は、ますます過激に、フルレンジになっていく。


僕がパンテラのようなギターの音を初めて聴いたのは、

リヴィング・カラーで、まあ、ビックラこいた。「ズモー!!」

お前はベースか!っちゅうぐらい低いレンジまでギターが伸びている。

多分、バイアンプシステムで作られた音で、

ギターの出力をパラって、レンジ毎に複数台のアンプを使う。

(バイアンプは、実はザ・フーの後期のジョン・エントウィッスルの音が、

実はそうである。)


仕方なく、ドラムとベースは上に逃げた。


さあここで、現代のドラムの音のある方向を決定付けた、

パンテラの登場である。キックが「チュン!!」

あれを聞いた時も、ビックラこいたなあ。

しかも2バス。「チュンチュンチュンチュン!」

スネアは味もそっけもない・・・スネアまだ謎なんよ・・・。

しかし「ヌケりゃ文句ねえだろ!」みたいな音。


ダイムバック・ダレルのギターは明らかにバイアンプで、

これもフルレンジなのだが、

あれは、もうレンジの住み分けなんてものじゃなく、

「アタックのみ!」に命を懸けた結果であろう。

しかしアタックだけでなく、超低域もちゃんといるのである。

ベースに至っては、超低域のみでウネウネウネウネウネウネウネウネ。


「俗悪」の曲をリッピングして波形を見たことがあるが、

ドラムのアタックだけが、ピョコンピョコンと限界一杯入っていて、

他の楽器、ボーカルはむしろレベルとしては、健康的かむしろ小さい。

しかしあの全体感と来た日にゃ、あーた・・・。

カッコイイの一言。


確信犯だなあ、考えてるなあ・・・。

と、ふと、クレジット見ると、ドラムのヴィニーがプロデューサーの一員で、

エンジニアもやってるんだよね。

なるほどねえ・・・。


スリップ・ノットではスネアもタムもカンカラカン。

ま、これも近年のレンジの広いギター、多くのパーカッションから

どこに逃げるか。のひとつの結論であろう。

ま、上に逃げた。ボーカルもダミ声だし・・・。

ま、逃げたと書くが、あれは演奏は大変なハズ。


んまあ、この辺の経緯は、ドラムテックとしてみると、

ホントに興味深く、トシ甲斐もなくパンテラ好きだったりするので、

9mmなどでの仕事は、みんなと盛り上がりながらやっているし、

そこまでいかないバンドでも、レコーディング機材、アンプの高品質化によって、

ドラム以外の楽器は、高いところまでレンジが伸びてきているので、

メタルの音のどれかを作ると、意外とはまる場合も多く、

音がはまると、バンドも「上がる」。

んで、この辺の音を作るための手法も最近ひとつ発見して、

手早く試せるようになったので、そういう事が起きる頻度が高くなった。

もうちょいこの方向も詰めてみるつもりである。

あのヘッドで、これやったら良いんじゃねえか?とか。


ま、スネアの居場所ひとつ取っても全体像を考えに入れると、

考え方が変わってくるし、実際メタルのスネアサウンドの変遷には、

それを考え抜いたフシが見受けられる。


ま、海外の場合、これはメタルに限らないが。