「夏って何となく解放的な気持ちになるな」
「何よ、突然。気持ち悪いわね。この暑いのに更に暑苦しくなるような事を言わないでちょうだい。高まった体温を外に放出したいのに中々上手くいかない私の身体は出来損ないだ、とでも言いたいのかしら?」
「いや、別にそんな事は言わないぞ。夏って他の季節よりもイベントが多い気がするし、きっとそういうので恋が始まったりするケースも多いんじゃないかと思うんだ」
「あらそう。何かしら。まさか自分は既に勝ち組みたいな驕り高ぶった気持ちで他の人達の恋愛が成就するように祈っている、とかいう偽善者ぶった気持ちを撒き散らそうとしているのね。経済不安で政治不安な国家というのはそれだけ地盤が不安定なのよ。あまり他人にかまけていると簡単に足元をすくわれる可能性が高いから気を付けた方が良いと思うわ」
「だから別にそんな事を言うつもりはないんだけど……例えばどんな風に始まる恋愛が理想の夏の恋愛なのかな、と思っただけで……」
「あらそう。もちろんそれは色々なケースがあるでしょうね。夏だからこそ恋愛に繋がるケースも多々あると思うわ。例えば朝8時から開催されるスイカ割り大会に遅刻した男性が大急ぎで会場に向かうと、曲がり角で一人の女性とぶつかってしまうのよ。二人はお互いの不注意を罵りあって、第一印象は最悪のまま一旦別れるわ。でも会場で再び出くわしてしまうのよ。彼女は彼に目隠しをして10回転させる係だったのよ。回っている最中に彼の棒が不運にも彼女の頭に直撃して、お互いに目が回った二人は気が動転して恋に落ちてしまうわ」
「何だその話は!一番大事な恋に落ちる理由が適当過ぎるぞ!」
「うるさいわね。それなら他のケースもあるわよ。例えば花火大会に遅刻しそうな男性が大急ぎで会場に向かうと、暗闇の中で一人の女性と激突してしまうのよ。二人は暗い夜空への文句をありったけ言い合って、何だかすっきりした気持ちになるわ。そこへ大きな花火が打ちあがって、二人の顔が照らされるのよ。二人は子供の頃の花火大会で同じような出来事があったのを同時に思い出すわ。いつか恨みを晴らそうと思っていた相手とついに出会えた二人は思い切り頬を張り合って、草むらに寝そべって大笑いして許し合うのよ」
「せっかくの運命的な出会いが途中からガキ大将のケンカみたいになってるぞ!花火大会って人出がスゴイし、寝転がって大笑いしてたら周りに怒られそうな気がする」
「うるさいわね。それなら他のケースもあるわよ。昆虫採集をしようとしていた男性が大急ぎで公園へ向かうと、先に華麗な網さばきで虫を採集しまくっている女性がいるのよ。分けて欲しいと願い出ると、実験用の虫だから渡せないと断られるわ。どんな実験か気になって付いていくと、あれよあれよと男性はベッドへ寝かされて縛られてしまうわ。ひと夏のアバンチュールを期待した男性がされるがままになっていると、女性は大きな虫ピンを持ってきて男性を突き刺そうとするのよ。結局女性の目的は、虫を使って人を採集出来るかどうか、という実験をする事だったのよ」
「……何なんだそれは?恋愛でも何でもない事件のような……流石のお前でも理想の恋愛ってテーマでは無理があったか」
「まぁ、アイディア不足で行き詰っている三流作家のような言い方をするなんて、失礼な。解剖するわよ」
「実際に僕を使って実験しようとするんじゃない!」
「違うわよ。回想するわよ、って言ったの。理想の恋愛の価値観なんて人それぞれよ。そういえば私達の今の関係も夏に始まったような気がするわね」
「そ、そうだな……って、お前にとっての理想の恋の始まりは僕達だったのか……恥ずかしいけど僕も同意見だぞ」
※詳しくは
小説版会話ブログ【はじまりの日】
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