恋と軍艦(1) (講談社コミックスなかよし)/西 炯子
¥440
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現在なかよしに大きな変革が訪れています。生き残り策を模索しているのです。


恋と軍艦1巻
西炯子・なかよしKC
(なかよし掲載)


★あらすじ★
遠藤香菜、13歳。おばあちゃんと田舎の町で暮らしている夢見がちな中学生です。
香菜には片思いの人がいます。若くて優しい町長さん。歳は親子程も離れているけど、いつか恋人になる!と決めていました。
ところがひょんなことでたどり着いた建物に怪しいおじさんが住んでる事を知ります。しかも町長さんがちょくちょくやってきて泊まっているらしい。
クラスメイトの篠原さんは二人の関係をいぶかしんでいますが‥?

「娚の一生」で大ブレイクした西先生がなかよしで放つ、少し大人の恋。


☆☆☆

主人公が中学生であり、なかよし読者に合わせるため香菜の頭と身体のバランスがおかしかったりするのですが、まごうことなき西漫画です。
落書きみたいな「アサー」もあるし、枯れた男性がメインに関わってきます。しかもおっさん同士がかなり深い仲っぽい。
それから香菜のクラスメイト篠原晶が「実は中身三十代じゃね?」というか、他の西作品の主人公みたいなキャラ。香菜のフワフワした感じについていけない大人は視点を晶に移動して読めば大丈夫だと思います(でも香菜との認識の食い違いが笑えます)。晶は作者買いした大人のための安全装置です。
田舎の小さな町が舞台であり、造船所のあった過去が元で町内が分裂しているという「娚の一生」ぽいところもあります。

1巻どころか本誌でもまだこの漫画が何を言わんとしているのか分からないので、物語についてはどうこう言えない状態です。恋物語ではなく香菜と晶が友情を結ぶラストではないかと思ってますが。


゜・:,。゜・:,。★゜・:,。゜・:,。☆

さて、本題に。

なぜ西先生がなかよしで連載しているのか。講談社で連載するなら何故ビーラブでないのか。子供向けの漫画をやりたかったなら何故ちゃおでないのか。

これから四ヶ月あらゆる出版社で「姉の結婚」など西先生の単行本が発売され、一大フェアが展開されます。現在の漫画業界は一発当てた漫画家を出版社がタッグ組んで売っちゃうんで、とにかく多く漫画を発表する事が必要だったのかもしれません。なかよしでもなんでもよかったのかもしれません。


で、現在のなかよしの状態なんですが‥西先生の他にもジャンル外の作家が連載しています。

・松本ひで吉
・タカハシマコ&桜庭一樹

さらに今月予告なしにPEACH-PIT先生が戻って来ていますし、遠山えま先生はなかよしデビューですがあらゆる4コマ雑誌をかけもちしています。
また森永あい先生が児童小説のコミカライズをつい最近やってました。昔からCLAMPやコゲどんぼ先生も来ていましたが、ここまで外部作家で占められてはいませんでした。
このへんの原稿料が高いのか、今のなかよしは580円もします。


なな色マジック等が好きだった昔のなかよし読者さんならビックリするというか「けしからん」と思うかもしれません。
しかしこれが今の幼年漫画の生き残る道だと思っています。
そして最近まで460円に値下げしていたりぼんが値段を500円に戻しました。内容が充実していなければいくら安くてもダメなようです。


なかよしは単行本を売る戦略に出ました。
雑誌が売れなくても単行本がバカ売れすれば雑誌は廃刊にならないで済みます。そういう雑誌が日本にはゴマンとあります。
で、子供は単行本を買えません。お金ないし。しかも子供が一生懸命漫画を買っても少子高齢化社会ですから儲からないのです。

だからなかよしは雑誌のアイデンティティを捨てた。そしてある程度有名な外部作家を取り込み単行本を作って売る事にした。
なかよしの単行本は最近リニューアルし、大人が買っても恥ずかしくない自由な装丁が出来るようになっています。内容も大人が読んで満足できる(タカハシマコの「荒野の恋」も売れると確信しました)。西先生のコミックスはかなり影響出ると思われます。
逆に子供がそちらへついていけるようになれば漫画を楽しむ力が養われていき(高尚とか低俗とかの問題ではなくたんに読むジャンルが広がる)、次世代の漫画好きを育てることもできます。
つまり大人のサイフが周り回って子供を育てる、ということでしょうか。編集部が儲かればさらに雑誌を充実させたり増刊で新人を育てられるようになります。
作家的にもいろいろ単行本出して合わせ技で売ることがメリットだと感じているので互いの利害が一致しているのです。


一方、ちゃおも独自の方向へ動いてますね。シリーズ連載や読み切り連作で単行本を作り、「どこから買っても読める」ため子供が単行本に躊躇しなくなってます。今は普通にちゃおコミックスが売れています。
さらに真面目な作品を出しても売れるようになり、ちゃおが250万乙女時代のりぼんに成り代わりつつあります。

それから、やおいネタに非常に寛容。子供時代から腐女子教育をしておけば将来間違いなく漫画を買うようになります。
今の中学生くらいだとオタクへの偏見がありません。リア充を兼ねられるので腐女子であろうと問題ないのです。

ではりぼんはどうかというと、新しい読者開拓は全然考えていません。種村酒井春田作品は卒業したりぼん読者に売れるでしょうが、最近ひたむきに押している「ひよ恋」はそれらとの違いがありません。
百合漫画だと銘打った「ブルーフレンド」は単行本がかなり売れましたが、じゃあ他にも単行本ありきの作品を作るのかと思ったらそうでもない。


現在幼年少女雑誌売上はだいたいこんなもんでしょうか。

ちゃお 80万
なかよし 30万
りぼん 30万

ただし単行本を買う層はこう。

ちゃお  リアル読者が気に入った作品をコミックスで手に入れる

なかよし  作家買いする大人がターゲット(本誌は読んでない)

りぼん  かつてのりぼん読者が好きな作家のコミックスを買う(本誌は卒業してる、いずれコミックスも卒業しちゃう)

ちゃおの売上は段違いなのでいいとして、
これから漫画好きのために単行本づくりに力を入れていくであろうなかよしと、単行本について考えてないりぼん。
現在拮抗している二つの雑誌は、いずれ勝負が決まって来ると思います。

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