<草薙出雲視点>
マドカが店に来てから2週間。
1年連絡してこんかったんや。
連絡はあてにはしてなかった。
天気も悪い日で早めに店も閉めようかと思ってた矢先、
端末が震えた。
表示された文字は望んでいたその名前。
咳払いを一つして、端末をタップする。
「はい、草薙」
「…こんばんは。マドカです」
「どないしたん、こんな時間に」
聞きたかった声が聞けるとどうしてこないにも安心するんやろな。
「ごめんなさい。遅い時間に。今仕事が終わったので」
「相変わらず忙しいみたいやな」
腕時計で時間を確認しながら応える。
「はい…。あの…この間店で話してたアンナちゃんと会う日なんですけど」
「ん」
「今度の土曜日が私空いてるんですけど、アンナちゃんはどうですかね?」
「アンナは大丈夫や。マドカに会えるって喜ぶわ」
「じゃあ土曜日10時くらいに店に迎えに行きますね」
「わかった。伝えとくわ」
「はい、お願いします」
「マドカ」
このまま通話が呆気なく終わる気がして、名前を呼んだ。
「…はい」
「ありがとうな」
「いいえ…」
「体調、気ぃつけや」
「はい…草薙さんも。…じゃあ…おやすみなさい」
「ん、おやすみ。」
端末を切ってそっと小さく息を吐く。
今更アンナをだしにした感じやなぁと自嘲もする。
マドカに会いたかったのは俺の方やったのに。
翌日アンナにマドカのことを伝えれば珍しく花が咲いたように顔を綻ばせ喜びを噛み締めていた。
そんなアンナを俺を始め、吠舞羅の連中も優しく見つめた。
「つーか、草薙さん。アンナだけ行かせるつもりですか。
マドカの奴、今セプター4なんスよね。何か罠だったりとか」
「心配せんでええよ、八田ちゃん。当日は俺も付いていくから」
俺の言葉に尊が鼻で笑って、十束はニヤッと笑った気がしたが無視しといた。
自分が会いたいだけって自分でもわかっとるわ、アホ。
当日。
マドカが店に来て俺も付いていくと言えば、
躊躇っていたものの「大事な姫さんを守らないかんからな」と笑えば
「じゃあお願いします」と笑いながら頭を下げたマドカ。
護衛の意味があるのはあったけど。
まぁ、それは口実と言えば口実で。
ただ単に俺が一緒にいたかっただけや。
ショッピングモールではしゃぐ二人が姉妹のようで俺は目を細めた。
3人で昼を食べて、買い物も済ませて。
アンナの服や雑貨を買い込み、アンナを挟んで3人で帰り道を歩く。
ふとマドカと目があう。
マドカも喜ぶアンナの姿が嬉しいらしく、あの頃と変わらん笑顔で笑うから俺もつられて笑う。
このまま時間が止まればええのに。
店に戻ったらアンナは変な気を遣こうたみたいで、
マドカにお礼を言って自分の部屋へと駆け上がっていった。
俺は今日のお礼と言って、マドカの好きなミルクティを淹れる。
「今日折角の休みやったのにありがとうな。アンナも喜んでたわ」
「いえ、私も楽しかったです。こちらこそありがとうございました」
カウンター越しに短く会話を交わしていく。
それは決して嫌なものではなくて、
でも会えなかった時間を埋めるものではなくて。
何となく隔たりを感じながらも、
俺がマドカの優しさにすがってるだけかもしれんな、なんてうっすら考えた。
俺の「おかわりするか?」の一言に首を小さく横に振るマドカ。
タイムリミット、か。
そう思えばマドカは自分のバックを触り始めた。
「あ、あの…草薙さん」
「ん?」
「あの…かなり遅くなってしまったんですけど…。誕生日プレゼントです」
「…」
差し出された赤い紙に包まれたそれを見て、俺は驚きすぎて言葉が出てこん。
「あ…、ごめんなさい。迷惑でした、よね」
「…迷惑なわけあらへん」
「へ?」
「マドカから貰えるならどんなもんでも嬉しいわ。ありがとうな」
俺の言葉に首を小さく横に振ったマドカは頬を染めて
少しばかり残っていた紅茶に口をつけた。
ああ、可愛ええな。
今日何度も胸の内で繰り返した言葉をまた胸の内で零す。
紅茶を飲み終わったマドカはまた礼を言って店を後にした。
丁寧に包み紙を開けて出てきたのはポケットチーフで。
濃い赤にブロックチェック柄のものだった。
緩む口元を手で覆いながら、それを手に取る。
折り畳んでから胸元にあったポケットチーフを取り出して、入れ替える。
店の裏口に出て煙草を取り出して、ジッポで火をつけて空を見上げた。
「あー…、アカン」
久々に長い時間一緒にいたせいか、閉じ込めていた想いが溢れそうになる。
「危険やと思て吠舞羅に入れへんかったのに…、青の王から取り戻しとうなってきたわ」
胸いっぱい吸い込んだ紫煙を空へと吐き出す。
「余裕ないな、俺も」
自嘲しながらも、次はどんな手を使ってマドカを店に呼び出すかを考える俺がいた。
終
※カクテル言葉 → ジンライム 『色あせぬ恋』
急いでアップしたので変なところが多々ありそうで怖い。
あとがきは明日以降で;
読んでくださってありがとうございましたm(_ _ )m