お礼企画第1弾 『幾久しく』(薄桜鬼・風間)後編 | 浅葱色の空の下。

浅葱色の空の下。

薄桜鬼に見事にハマってしまったアラサーのブログです。
拙いですが、お話描いてます。
まだゲームはプレイしてません!色々教えてやってください。

少しずつフォレストにもお話を置いていっています。お楽しみいただければ幸いです。






りかが湯殿に向かえば、丁度風間と家人が湯殿への戸を開けるところだった。


「千景様…」


「…どうした」


「…お背中を流します」


「どうした、先程と違い随分と殊勝だな。…りかの湯着の用意を」

言いつけられた家人は二人に頭を下げて去っていく。


「入るぞ」


「…はい」


湯殿に続く間に入れば、風間にぐっと腕をひかれ、腕の中におさまったりか。


「…何があった。申してみよ」


抱きしめられながら耳元に下りてくる肌を撫でるようなその声に、
安堵やら不安やらが心の中で騒ぐのを抑えながらりかは風間の胸襟をやんわりと握った。


それに気付いた風間が指でりかの顎を掬えば、揺れるりかの瞳とかち合った。



「…先程千景様は部屋を出て行かれる際に…、『あやつに頼むか』と仰られて…」


「ああ、確かに申したな」


「……私以外に、共に湯殿に入られるような…側室のような方がいるのかと…」


頬を染め、今にも泣きそうな表情をしたりかが告げた言葉に風間は目を丸くし、
途端りかを強く抱きしめた。

首元に顔を埋める風間にくすぐったさを感じながらもりかは風間の言葉を待った。



「…ククク、…ククク」


すると肩を震わせながら笑い始めた風間に今度はりかが目を丸くした。


「ククク…、フハハハ…。愉快、愉快だ、りか」


「…っ。笑うことでありますか?!」


「心配するな、りか。俺はお前を妻として風間家に迎えた。側室など端から考えてはおらん。
故にお前以外を抱く気はない」


「で、では何を『あやつに頼むか』と仰られたのですか?」


「これを見よ」


手をひかれ、湯殿へと二人で足を進める。

鼻を掠めたのは葉や草のような香り。

目に入ってきたのは湯に浮かんだいくつかの束になった菖蒲だった。


「…菖蒲、ですか?」


「そうだ、菖蒲は病邪を払うと言われている。
りかもここに来ての生活も慣れてきたとはいえ、疲れも溜まっているだろう。
いい頃合かと思い、村で菖蒲を沢山所有している者がいるからな。
その者に菖蒲を分けてもらった」


「…そう、でしたか」


りかは胸のつかえがすっと下りたのと同時に込み上げてくる羞恥を感じた。


「あ、あの大変な勘違いをしてしまいまして、申し訳ございませんでした。
お気遣いもありがとうございます」


「もうよい。久々に腹の底から笑わせてもらった。りかの可愛らしい嫉妬も見れたことだしな。それに…共に湯浴みをするのであろう?」


「…はい」


風間は口元に淡く笑みを浮かべるとりかの唇を柔らかく食むように口付けた。

互いを確かめ合うように重なった唇は次第に深さを増し、
湯気が立ち込める中、二人の熱を煽っていく。


不意に離された唇を名残惜しげに目で追えば、満足気に笑みを浮かべる風間の表情があった。


「そのようなもの欲しげな顔をするな。まぁ待て」

来た時と同じように手をひかれ湯殿を出れば家人の声が耳に届いた。


「旦那様、奥方様の湯着をお持ちしました」


「入れ」

風間との口付けで家人の気配に気付けなかった自分をりかは少し恥じた。


「では着替えろ。俺は先に入っている」

帯を取り、風間の胸元が肌蹴たのを見て慌ててりかが背を向けると
風間は愉快だと言わんばかりに「ククク…」と声を漏らした。





りかは湯着を纏い、湯殿へと足を向ければ、湯気の向こうに風間の姿が見えた。

風間の整った逞しい身体に恥じらいを覚え、視線をそらし「お背中を流します」と声をかければ

短く「構わん。入ってこい」と返って来た。


かけ湯をしていれば、じれったく思ったのか風間は湯からあがり、
りかを抱き上げそのまま湯へと戻り、
そっと腰を下ろした。

風間の行動に慌てたりかも驚きの声を上げたものの、
しっかりと風間の首に腕を巻きつけ、湯に浸かってからもそれを解く事はなく、
じんわりと身体に伝わってくる温かさに顔を綻ばせた。


「気持ちいいですね」


「ああ」


りかは風間の胸元を滑る水滴に色気を感じ、ほぅと小さく息を吐いた。

少し躊躇いつつも、甘えるように風間の首元に軽く自分の頭をあずければ、風間は鼻で笑った。

りかは顔を戻し、間近にある風間の瞳を見つめる。

目を気持ち細めた風間はりかの頬に手をそえ、口を開いた。


「いつも何故そのように恥らう。今のように甘えてくればいいものを」


「確かに恥ずかしいのもありますが…少し怖いのです」


「…怖い?」


「千景様に愛される度にもっともっとと欲しがってしまう自分がいて、
…自分が自分でなくなってしまうような気がして…」


「…可愛いことを言う」


愛おしい妻の言葉に風間は口元に三日月を浮かべた。


「もっと欲しがれ。我妻はお前だけだ、りか。りかも夫である俺だけを求めろ」


耳元で囁かれた声と言葉は耳を伝って身体の芯を疼かせる。


「…はい、千景様」


近付く端麗な顔に目をそっと閉じれば重なった唇。


湯殿のせいか、互いの息遣いがいつもより感じられ、身体は熱に絆されていく。





纏っていた湯着は既に意味をなさず風間に剥ぎ取られた。

波立つように音を立てる湯が耳に届いて恥じらいがかきたてられる。

後ろから被さるように攻め立てられ、声を必死で抑えるりか。


「ち、かげ様…。湯が、汚れて、しまい…ます」


「気にするな。湯の心配をするなど、まだまだ余裕があるのだな」


首を弱々しく横に振れば耳を甘噛みされ、りかの身体がピクリと跳ねれば、
風間の自身を更にきゅっと包み込んだ。


健気な様に悦に入る風間は鼻で笑い、更に奥へと己の熱を突きつけた。








浮かび上がった意識にりかはそっと目を開ければ、隣で添い寝する風間の姿が目に入った。

変わらない恥じらいと少しの照れが胸の内に広がり、
胸元に身を少し寄せれば「起きたか」と言葉が降りてくる。


風間は少し身動ぎをし、頭元に置いていた竹筒の水を口に含み、りかに口移した。
体内を潤していく感覚に安堵を覚えたりか。
何度かそれを繰り返し、水を飲み干した後も名残惜しげに風間はりかの舌に舌を絡ませた。


距離を取れば、いつものように恥じらいを浮かべながらも物欲しげなりかの表情に
風間は笑みを浮かべる。


いつもは美しく気品ある物腰で頭領である風間の傍らに控えるりかも、
このような表情をさせるのは自分だけだという事実に風間は悦に入る。


「ありがとうございます」と礼を伝えたりかに
「構わん。もう少し休んでいろ」と抱き寄せる風間。



『この俺が一人の女鬼に世話を焼くなど、出会う前までは考えられなかったな』と自嘲する。

再び眠りにおちていくりかに髪を指で梳りながら風間は耳元で囁き、唇を寄せた。




「幾久しく、俺の傍にいろ」と。













終。














別記事にてあとがき書きます。