前発言で紹介したように,正負の数の加減ルールの理解に,トランプは絶大な効果があるのだが,正負の数の乗除ルールの理解には,トランプはあまりうまくいかない。
つまり「マイナス×マイナス=プラス」ルールの妥当性を納得させるために,カードを加えること・引く(取り去る)ことの応用では,どうもうまくいかない。
昔考えたときもうまくいかなかった。
乗算を累加と解釈すると,除算は累減となる,つまり累加・累減という加減と,正負の乗除との関係がゴチャゴチャしてうまくいかず,正負の乗除は,トランプではなく,教科書にあるように,速さ・道のり(進む方向でプラス・マイナスを決める),時間(未来・過去でプラス・マイナスを決める)による説明の方が妥当だと思ってきた。
今回,あらためてトランプのカードで乗除を説明できないかと考えてみた。結果は,説明できなくもないが,加減のように分かりやすい説明にはならなかった。
その理由は,加減では,+・-の演算記号の前後の正負の数を両方ともカードで表すことができる(+・-の前後の数は,量としての意味が同じ。同種の量とみなせるから加減ができる)が,乗除では,×・÷の演算記号の前後の正負の数を両方ともカードで表すことができない(被乗数・被除数と乗数・除数とでは量としての意味が違う)からである。
また,「(+3)をひく」ことは「(-3)をたす」こと,「(-5)をひく」ことは「(+5)をたす」こと,と,正負の符号を逆にすることで加減を逆にできるが,「(+3)でわる」ことは「(-3)をかける」こと,「(-5)でわる」ことは「(+5)をかける」こと,とはならない。
そもそも,「かける」の「反対」は「わる」ではなかった。
正負の数の単元の最初に,高い・低い,増える・減る,東・西,などのように,反対の性質を持つ数量は正負で表すことができる,と習う。
「+3㎝低い」=「-3㎝高い」,「-300円増えた」=「+300円減った」,「東へ-5㎞=西へ+5km」,「-3を引く」=「+3をたす」などという言い換えを習うが,「わる(+3)」=「かける(-3)」ではない。「わる(+3)」=「かける(+1/3)」である。この意味で,「かける」の「反対」は「わる」ではない。
つまり,
(+4)-(+3)
=(+4)+(-3)
(+4)-(-3)
=(+4)+(+3)
とはなるが,
(+12)÷(+3)
=(+12)×(-3)
(+12)÷(-3)
=(+12)×(+3)
などとはならない。
正負の加減は,符号を逆にすれば,逆の加減になるが,正負の乗除は,符号を逆にしても,逆の乗除にはならない。
しかし,乗を累加,除を累減と考えれば,正負の累加・累減は,符号を逆にすれば,逆の累加・累減になる。しかし,なることはなるが,決して分かりやすくはない。そう考えることができるというだけではないか,という気がする。