東北大学大学院の院生による小学2年生に対するかけ算の学習支援 | メタメタの日

(承前)

 東北大学大学院教育学研究科の院生がスタッフを務める学習支援教室での,小学2年生Yくんに対するかけ算の指導で,怒りにかられたのは,かけ算の式が一度はわかったYくんが,式の順序を言われてわからなくなってしまったことである。これは,スタッフ(院生)のせいではなく,小学校の先生の指導の,そして使用している教科書のせいでしょう。

 http://www.sed.tohoku.ac.jp/~edunet/annual_report/2011/11-06_miyata.pdf



1回支援教室(201010月初旬)

Yくんは,学校で既習の2の段から7の段までのかけ算の計算問題を全問正解する。つまり,かけ算の式があれば,かけ算の答を出せた。

2回(10月初旬)

 かけ算の文章問題を解けない。つまり,かけ算の式を書けない。スタッフ(院生)が問題文を絵で示しても立式できない。

3回(11月中旬)

 文章問題から正しく立式して正答を求められた。問題が絵で示されても,正しく立式して正答を求められた。ただし,このときの立式は,「一あたり量×いくつ分」(論文ママ)の順序でなかったものもあったようだ。しかし,スタッフは,この段階では,それが学校で不正解とされているとは思っていなかったようだ。

4回(12月初旬)

 Yは,文章問題が「わからない」と言いだし,1問目をスタッフの援助で解き,2問目以降は1人で解くが,第3回目と違った反応にスタッフは意外の思いを持つ。支援教室後,Yの保護者から,「かけられる数とかける数」がよくわかっていないらしいと聞き,Yの答案を確認すると,Yは問題文に数値が出てくる順に立式していて,「一あたり量×いくつ分」を逆にしてあるものがあったことを知る。ということは,スタッフも,保護者から話を聞くまでは,「一あたり量×いくつ分」が逆でも正しいと思っていたのではないか。



かくして,スタッフは,第5回(1月初旬)の支援教室に向けて,Yくんに「かけ算の意味と式の順序との対応(557行目)を理解させるための「学習支援プランの開発」を試みる・・・

ナンダカナー,である。たいていの大人は,かけ算の式を立てるときに,その順序などは気にしない。多分,このスタッフもそうだったのだろう。問題文や絵から,かけ算の問題だとわかれば,「全体量=ある数×他の数」(59頁下から9行目)で答を求める。

2回目では立式できなかったYくんが,第3回目では立式できるようになったとき,確かに,今はかけ算をやっているから出てきた2つの数をかける式を書けば良い,と短絡思考をしていた可能性はある。しかし,文章問題だけではなく,絵からも立式できたということは,絵の何を数えれば良いかがわかっていたはずだ。

大人の場合はどうか。

仕事や日常生活で,同じ数量の集まりが複数あって全体の数量を知りたいときは,かけ算をすればよいと当然思う。その時,どちらが「かけられる数」で,どちらが「かける数」だから,どういう順序で掛けなくてはならない,などという「余計なこと」は考えない。対象が「かけ算構造」(同数-複数)になっていることを認識することが肝であり,「同数―複数」は同時に認識する。なぜなら,同数か否かは複数の集まりについての認識なのだから,どちらかを先に認識するということは論理的にありえない。ただし,その同数や複数の具体的な数値は,どちらに先に目が行く(数える)かで順序が生じることはある。(また,それを表現するときには,当然順序がある。)

だから,問題が書かれた文章から「かけ算構造」を知るときは,文章に数値が書かれている順序で,同数(1つ分の数)や複数(いくつ分の数)の値を知る。絵で「かけ算構造」を知る時も,同数や複数の具体的な数値については,どちらに先に目が行くかでケースバイケースであり,人によっても違うだろう。また,どちらを同数(1つ分の数),どちらを複数(いくつ分の数)とするかがどちらでもいいこともある。

57頁のうさぎの絵と鉛筆の絵の場合でも,「かけ算構造」を知った後,同数(1つ分の数)か複数(いくつ分の数)のどちらを先に認識しなければならない,ということは本来ない。うさぎの場合,耳2本は常識だから,先ず2を認識して,頭数を数えるという順序に私もなったが,当然,式はどちらでもいい。鉛筆では,私も,先ず大きなケースの方に目が言ったから8を先に認識し,それから鉛筆の本数4に目が行ったが,式はどちらでもいい。

かけ算の式は,「同数(1つ分の数)×複数(いくつ分の数)」でなければいけないというのは,大人には通用しない理屈である。

しかし,大人に通用しない非常識でも,教育的指導としてありうることはあるだろう。

Yくんの先生は,「「一あたり量×いくつ分」の順序を家庭での学習でも徹底してほしい」と言ったそうで,スタッフは,その理由を問うことなく,「学習支援プラン」を作成することになった。

かけ算の立式についての「小学校(2年)ルール」――「かけ算構造」を認識したときは,必ず「同数(1つ分の数)」と「複数(いくつ分の数)」の区別を確認し,「同数(1つ分の数)」を先に書く――の有効性の理由として,この数年間の議論で出てきたもので,ほぼ唯一検討の価値があると言えるのは,そういうことを認識することで,わり算(特に小数・分数の)の立式に役に立つということである。(つづく)