いまの算数の教科書の叙述がどうなっているか,ですが,以下,『東京書籍・平成15年発行版』によりますが,東京書籍だけの問題でないことはもちろんです。
2年下の6頁に
「 4 × 3 = 12
1つぶんの数 いくつぶん ぜんぶの数 」
とあります。
2年下の13頁に
「 3 × 9 = 27
かけられる数 かける数 」
とあります。
2年下の28頁に
「かけられる数と かける数を 入れかえて 計算しても, 答えは おなじに なります。」
とあります。
4年下の50頁に
「長方形の面積=たて×横=横×たて」
とあります。
さて,どういうことになるのか。
大人は,ここから,かけ算では交換法則が成り立つから,かける順序はどっちでもいいんだ,と理解します。しかし,この常識が次の世代と共有されていないという事態が(一部に)生じているらしい。その原因は,教科書の理解が,小学校の先生と世間の大人との間では違うからのようです。
先ず,かけられる数(被乗数)とかける数(乗数)の交換法則の理解に違いがあるようです。
3×5の式では,3が被乗数,5が乗数ですが,3と5を交換した5×3の式では,どちらが被乗数,乗数なのでしょうか。学校では,交換したら(交換しても),5が被乗数,3が乗数であり,5を乗数,3を被乗数とはしないようです。
つまり,
被乗数3×乗数5=被乗数5×乗数3
という理解です。
(世間の人は,どっちでもいい,くだらないことを議論しているな,と思うでしょうね。)
しかし,「たて×横=横×たて」の場合は,こういう理解ではありません。
たて3×横5=横5×たて3
という理解のはずです。決して,長方形を90度回転すると,たてと横が入れ替わるから,
たて3×横5=たて5×横3=横3×たて5
という理解ではないはずです。
では,「1つぶんの数×いくつぶん」の場合は,どうなるのか。
子どもは,「かけられる数」とは「1つぶんの数」のこと,「かける数」とは「いくつぶん」のことと教わるわけですから,「かけられる数とかける数を入れかえて計算しても,答えは おなじになります」と教わるときに,「1つぶんの数といくつぶんの数を入れかえて計算しても,答えはおなじになる」と理解するはずです。しかし,そう明示した文が教科書には出て来ないこと,出て来ないばかりか,交換法則を教わった後でも,小学校では(全部の先生ではないでしょうが),かけ算の式は,「1つぶんの数×いくつぶん」の順序で書くことを要求されるわけです。
そして,
「1つぶんの数3×いくつぶんの数5≠1つぶんの数5×いくつぶんの数3」
数を入れ替えた式では「等式不成立」とされる。
「被乗数3×乗数5=被乗数5×乗数3」
は成り立つ(認める)わけですから,それより縛りがきついことになる。
なぜなら,数を入れ替えると,「式の意味」が変わる(「タコの足の数が2本になる」!)というわけです。しかし,
1つぶんの数3×いくつぶんの数5=いくつぶんの数5×1つぶんの数3
と理解すれば,「式の意味」は変わりません。
「たて3×横5=横5×たて3」と同じように理解すれば問題ないはずです。
しかし,かけ算の式には順序があるからダメだ,というわけです。3×5の式は○でも,5×3の式は×にされる‥‥
‥‥などといったかけ算の順序の議論など,普通の大人には,どうでもいい,くだらないことだと思います。しかし,最近の子どもや,最近(ここ20数年ほど)小学校で算数を教わった人には,どうでもいいことではなくなっているようで,社会がどうでもいいことと思っているようには,次の世代(の過半数になっているでしょうか?)は,どうでもいいこととは思っていない。典型例は,YOMIURI ONLINE「大手小町」の「発言小町」で,請求書のかけ算の式の順序が違うと言って,取引先をバカ呼ばわりした女性社員でしょう。
http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2004/0607/002209.htm?o=0
かけ算という社会生活上の基本的なことで常識が伝承されていないのは,そうとうヤバイと思うのです。小学校の,というか,教科書の責任は大きいでしょう。