生理学を理解して、どのくらいの圧を部位ごとに意識すること、痛みに対してどう対処するかを組み立てると
臨床で結果が出せるようになります。
体性感覚
感覚と受容器の種類
①触圧覚…皮膚の表面を軽く触った時の感覚ですが、触れたまま動かさない場合は遅順応性の受容器(メルケル触盤、ルフィニ終末)が働く。動的な刺激の場合は速順応性の受容器(マイスネル小体、パチニ小体、毛包受容器、自由神経終末)が働きます。二点弁別というものもあり2点に加えられた刺激を2点と感じる最小距離のことです。
②温度覚…皮膚上の温度を感じることですが、受容器は自由神経終末です。温度は冷線維と温線維の発赤頻度により受容されますが、冷線維の発赤頻度が一番高いのが25℃で、温線維の発赤頻度が一番多いのは42℃です。15℃以下になると痛みを感じるようになります。これは痛覚受容器が発赤を始めるからです。温点と冷点では冷点のほうが多く存在します。寒さのほうが感じやすいということですね。また、熱くも冷たくもない温度を不感温度といいますが、33℃~36℃程度です。
③痛覚…痛みの受容器は侵害受容器で機械的な刺激にのみ反応する機械的侵害受容線維と機械的、科学的、熱的などすべての侵害刺激に反応するポリモーダル受容器があり刺激に対して発火します。
④固有感覚…四肢・体幹の動きを感じることです。筋が短縮、伸長したときの受容器は筋紡錘やゴルジ腱器官が発火し、関節が動いたり、牽引・圧縮が起こるときには関節包のルフィニ終末、パチニ小体、自由神経終末が発火する。
⑤振動感覚・・・振動刺激を感じることです。数10Hz~数100Hzの刺激を感じることができる。
感覚の種類と神経線維は違う。
結果の出せる治療をする為にに意識しておく事 <1
皮膚上の感覚が生じる点を感覚点といいますが、感覚点一つに対し受容器が一つ存在し、触点、温点、冷点、痛点が存在します。
①触点…顔面や手指で100個/c㎡存在。他の部位ではもっと少ない。
②温点…顔面や手指で1~4個/c㎡存在。他の部位ではもっと少ない。
③冷点…顔面や手指で2~13個/c㎡存在。他の部位ではもっと少ない。
④痛点…全身に100~200個/c㎡存在。
触覚の閾値がなぜ違うのか?
全身で触覚の閾値best5は
1.鼻
2.口唇
3.前頭
4.頬
5.小指
手指の中での触覚の閾値best5は
1.小指
2.環指
3.中指
4.母指
5.示指
2点弁別閾値には触覚の閾値が密接に関わっているが、それ以外に皮膚の変形しやすさにも影響されるためbest5は
1.手指(2~3mm)
2.口唇(2~4mm)
3.鼻 (5~10mm)
4.足趾(10~20mm)
5.足底(15~20mm)
手は物を正確に把持したり、操作したりする能力があります。2点弁別能力は手の能力と密接に関わっています。精密把握(良好な手での物体認知)には8mm以下の2点識別が必要であり、握力把握(重いものを持つときなどの握力発揮)には40mm以下の2点識別が必要になります。
デルマトーム
皮膚上の感覚は脊髄の分節と対応しています。例をあげると
C4:肩峰 C5:腕橈骨筋起始部 C6:母指球 C7:中指球 C8:小指球
T4:乳頭高位 T6:剣状突起高位 T10:臍高位
L1:股内転筋起始 L2:大腿内側中央 L3:膝蓋骨内側 L4:内果 L5:足背内側
S1:踵外側 S2:膝窩 S3:臀皺壁中央 S4-5:肛門皮膚粘膜移行部
実際には隣接する分節間には重複があり2~3の脊髄分節に支配されています。触圧覚で大きく、温痛覚で小さい傾向にあります。
上行性経路
①軽い触覚、圧覚、固有受容感覚は脊髄後角に入り、同側後索(上肢の感覚は楔状束、下肢の感覚は薄束)を上行し延髄へ行く、延髄の楔状束核または薄束核で二次ニューロンへ乗り換え、反対側の内側毛帯(毛帯交叉)を上行し、視床の後外側腹側核(VPL)へ、そこで三次ニューロンへ乗り換え大脳皮質の感覚野で終わる。これを後索路(後索-内側毛体路)といいます。
②粗な触覚、鋭痛は脊髄後角に入り、二次ニューロンに乗り換え反対側の前脊髄視床路(脊髄交叉)へ行き上行する。そして視床の後外側腹側核(VPL)へ、そこで三次ニューロンへ乗り換え大脳皮質の感覚野で終わる。これを前脊髄視床路といいます。
③鈍痛、温・冷覚は脊髄後角に入り、二次ニューロンに乗り換え反対側の外側脊髄視床路(脊髄交叉)へ行き上行する。視床の後外側腹側核(VPL)へ、そこで三次ニューロンへ乗り換え大脳皮質の感覚野で終わる。これを外側脊髄視床路といいます。②と③は脊髄網様体路としても上行し延髄へ向かう。そのため網様体賦活系が活性化され意識レベルが向上する。
④顔面の知覚や味覚は簡単にいうと三叉神経核を経由し、視床の後内側腹側核(VPM)へ向かう。そして、大脳皮質へ。詳しく説明すると…顔面の温痛覚は橋の三叉神経主知覚の高さから第3頸髄まで下行し、脊髄路核の尾側は温痛覚、極間部と吻側は粗大触圧覚を中継し反対側の内側毛帯の後外側を上行し後内側腹側核へ。これを三叉神経脊髄路核といいます。
顔面の識別感覚は三叉神経主知覚核から後内側腹側核へ。
咀嚼筋の固有感覚は三叉神経中脳路核から中脳上端へ。
体性感覚野
一次体性感覚野は大脳皮質の頭頂葉中心後回であるBrodmann3,1,2野にあり、二次体性感覚野は外側溝にあります。
3野は4野に近い3a野と1野に近い3b野に分けられます。3a野には皮膚受容器の情報がいき、3b野には深部感覚の情報が集まります。1,2野には3野から皮質間連合線維より情報を受けます。そして、運動野との間で相互に投射します。二次体性感覚野は一次体性感覚野から投射を受け、頭頂連合野、運動野へ投射します。
ペン・フィールドはヒトにおける運動野、感覚野における機能局在をはじめて明らかにしました。大脳皮質と体の各部の関係を図にしたものはペン・フィールドのホムンクルス(小さな小人)と呼ばれます。繊細な運動が必要な手指では大きくなり、体表面積と同じ比率とはなりません。
痛みについて
痛みはAδとC線維によって伝達され、中枢神経まで上行します。自転車に乗ってて転んだりしたときは、まず鋭い痛みがAδで伝わり、その後ジンジンとした鈍い痛みがC線維で伝わります。その情報は大脳皮質や大脳辺縁系に伝えられるため痛みを認識します。大脳辺縁系は自律神経、情緒、本能的な活動を担っているため、痛みに伴って恐怖や不安が起こったり、自律神経が刺激され脈拍が増えたり、血圧が上がったり、自転車に乗ること自体が怖くなったりもします。
皮膚に傷害を与えると、傷害部位からキニンやプロスタグランジンによって、その部分の血管が拡張し発赤と腫張が傷害部位を中心に2~3mmにみられる。その周囲数cmにも紅潮(フレア)がみられる。これは傷害を受けた部位の痛覚線維からP物質が放出されて周囲の血管が拡張されるために起こります。これら傷害を受けてから発赤、腫張、フレアが起こることを軸索反射と言います。
内臓の痛みは食道・胸部は迷走神経、腹部の臓器と胸膜は交感神経、直腸と生殖器は仙髄が支配しています。ですが痛覚受容器が少ないため場所が不明瞭となりやすく自律神経症状を伴うことが多い。臓器の炎症が腹膜まで及ぶ時は腹壁が固くこわばる状態になります。これを筋性防御といい臓器を守ろうとしている状態です。
内臓での痛みを体表で感じることがありますが、これを関連痛といいます。内臓からの痛みの情報が脊髄後角へ行きますが、その部位には皮膚の痛みの情報も入ってくるため、大脳皮質は皮膚の痛覚のほうが認識しているため体表に痛みを感じるようになります。
頭部の痛みの受容器は髄膜、血管、静脈洞、筋、粘膜、頭皮にはありますが、脳実質にはありません。頭痛の原因は原発性三叉神経痛のような神経性、片頭痛は血管壁の拡張・伸展による血管性、頭蓋内腫瘍による頭痛は血管・髄膜・テントの牽引による牽引性、緊張型頭痛は頭頚部の筋の持続的収縮によって起こる筋収縮性の痛みがあります。
疼痛制御系
①求心路での制御・・・どこかをぶつけた時にその周囲をさすることがあります。そのとき痛みが和らぐと思います。これは痛覚伝達のゲートコントロール説により説明できます。後角にきた痛みや触覚の情報は介在ニューロンによって脊髄視床路に軸索を投射しますが、この介在ニューロンは太い神経線維の情報を優先して投射するため細い神経線維は抑制されます。触覚はAβで痛覚はAδかC線維なので痛覚は抑制された状態で脊髄を上行します。
②下行路による制御・・・兵士や拷問を受けている人、ボクサーなど明らかな外傷があるにもかかわらず、痛みを感じていないという話があります。これは強い情動、決意、ストレスなどにより疼痛が抑制されています。このとき関わっている部位は中脳中心灰白質といわれています。ここから延髄縫線核へ、そして脊髄後角に投射し侵害受容神経を抑制します。
③内因性オピオイド・・・モルヒネ・コデイン・ヘロインなどは快楽を求め乱用している人たちがいますが、このオピオイドが全身投与されると強い鎮痛作用、多幸感(オーガズムの数万倍)、眠気、意識混濁、悪心、嘔吐、便秘を生じます。これは脳内のオピオイド受容体に結合しエンドルフィンと呼ばれる内因性のモルヒネを産生します。脊髄と脳幹にはエンドルフィンを含んだシステムがあり、これが活性化することにより、痛覚情報の伝達を妨げる(シナプス前末端からのグルタミン酸放出抑制)ため鎮痛が起こります。
しっかり学ぶと楽しくなります。
参考資料1
参考資料2