もうひとつのハルヒ、らき☆すたとメディアミックス宣伝 | 肉団子閑居為不善

もうひとつのハルヒ、らき☆すたとメディアミックス宣伝

先日、涼宮ハルヒの憂鬱という角川から発売されている小説とアニメーション、さらにインターネットを通じた新しいマーケティングについて論じてみてから、色々と事情があって長く記事を書くことができなかった。

ずいぶんと長く記事を書いていない間に日経新聞のインタビュー記事で角川ホールディングスの角川歴彦会長が「ハルヒ」DVDが北米で六万セットも売れたことに触れ、youtubeはじめとする動画配信サイトが地ならしをしてくれたとして、これを評価するという珍事があったり

http://animeanime.jp/review/archives/2007/08/dvd6_youtube.html


「ハルヒ」的マーケティングを完全に踏襲した「らき☆すた」というアニメのファンが聖地巡礼と称して埼玉の某神社に続々とつめかけているというニュースがフジテレビで報じられたり



と色々と話題満載の日々が続いたのはご存知のことと思う。

「らき☆すた」は角川グループのマンガ雑誌コンプティークに連載されている、オタク女子高生の日常を描いた四コマ漫画のアニメ化である。「ハルヒ」の成功体験からか、制作プロダクションは京都アニメーション、声の出演の声優陣もほぼ同じ陣容という体制でのぞんだ。また、You tubeをはじめとする動画サイトへの露出もハルヒ並みであり、「はる☆すた」なる高品質MAD(おそらくプロアニメーターの手による作品)まで出現、「ハルヒ」と同等かそれ以上のweb2.0マーケティングが展開された。

さて、では「らき☆すた」の放映が終了した現在、ハルヒ的マーケティングは果たして成功していただろうか?

確かにインターネットやテレビで報じられるニュースの中はハルヒと同様、らき☆すたのファンだらけのように見える。高校生のダンス選手権が夏に行われたが、その番組に登場したマンガオタクを自称する高校生グループのお気に入りは「らき☆すた」のグッズだった。いわゆるMADもずいぶんと多く投稿されている。アニメ系ブログも「らき☆すた」一色。しかし、先日実際に「聖地」秋葉原を歩いてみると、DVDの販売コーナーは「ハルヒ」の時と比べればまるで地味な扱いだし、発売されて間もないというのに(初回プレスが多すぎたのかもしれないが)初回限定版がどこの店にも売られている状況を目にすることができた。ハルヒの青いセーラー服を着た子供は見ても、らき☆すたの赤いセーラー服を着た子供はほとんど目にすることができなかった。

何が違っただろうか?「ハルヒ」は初期には無名で、一部のU局でしか放映されない深夜アニメだった。さらに、思春期の少女の精神的成熟の過程を描くテーマはとても魅力的だったし、原作小説やアニメ自体の出来も良く、放送される順番がわざと実際の話の進行と違えてあるなど、ファンダム的謎解きのネタが豊富に用意されていた。このアニメを知らなければ通ではないというような雰囲気や、噂の謎のアニメを知りたいという乾き、インターネットの動画配信サイトでこっそり著作権侵害の動画を見なければいけないという背徳の甘美さ、口コミでしかそこにたどり着くことができないことが口コミの伝播速度を速くしたとも言えるだろう。

らき☆すたはどうだろう?「ハルヒ」で知名度が爆発的に高まったアニメスタジオが、「ハルヒ」を演出した気鋭の演出家を今度は監督に据えて世に送るアニメである。放映前から知らぬ者はいないという状況であっただろうことは想像に難くない。既にこの頃となると動画配信サイトに行けば録画したものが、ご丁寧に英独仏西の各国語字幕までつけて放映後数日でアップロードされるのはもはや常識の範疇となっていた。作中に出てくる実在の場所をファンが訪れると聞けば雑誌の付録に巡礼マップをつけ、主人公が作中で作った自主制作CDの実物を発売するなど(しかも主人公は音痴という設定...)、本来ならファンがパブリックドメインでやっていたものまでプロが作って売り始めてしまったのは、少々やりすぎだった。

監督が途中降板するなど制作サイド内部にも足なみの乱れがみられたことも、残念だった。後半以降の作品の品質低下を嘆くファンの声を様々なブログやBBSで目にすることができた。もともとの作品自体も楽屋落ちとバロディー満載というかつての深夜ラジオ番組のようなノリだった。「ハルヒ」のような深いテーマも作り込まれた世界観とも無縁なものだったこともあり、笛を吹き、太鼓を叩いたほどには大きなブームは起きなかったと言えるだろう。

一方で、youtubeなどのメディアは活況を呈した。本編よりも、MADの方が面白い、などと公言するブログまで出現するに至っている。↓
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50889992.html

しかし、これでいいのか、と。本来はDVDが売れてナンボ、CDが売れてナンボのマーケである。Youtube肥やしてどうするねん、と私は言いたい。オールナイトニッポンやビックリハウスなどが仕掛けてきたWeb以前の様々なファンによる創作を見せる商売は、その創作を皆が見ききすることでお金が動き、皆がそれで食っていけた。角川は一体どのようなビジネスモデルを構築しようとしているのだろうか?有料動画サイトでもやろうというのだろうか?今の所はどういう形になるのやら、実験の段階ではなんとも答えかねるといったところか。

これが新しいWeb2.0の地平なのだろうか。