Q 「温泉権」というのは売買できるのでしょうか。
登記とかできるのでしょうか。
誤解ありがち度 4(5段階)
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A 「物権」として「温泉権」は認められています。
掘り下げるとマニアックな理論です(「温泉」的な洒落ではないです)。
【温泉権】
湧出した温泉を使う権利を買うことはできるのでしょうか。
→温泉付きの住宅,という形で建物とセットで取引されることがあります。「温泉権」という単独の権利として取引されることもあります。
まず,単純に,温泉の湧出している土地の所有者との間で「湧出した温泉の一定量を供給する契約」という考え方があります。
「債権」としての「温泉の供給を受ける権利」ということになります。
これは「契約自由の原則」により,問題なく可能とされます。
しかし,実務においては,より強い権利である「物権」の一種である「温泉権」として取引するのが通常です。
ここで,「物権」については物権法定主義(民法175条)との抵触が問題となっています。
「法律に定めるもの」以外は認めない,と明記されているのです。
「温泉権」はどの法律にも規定されていません。
しかし,これまでの判例の歴史において「慣習法」として認められています(裁判例後掲)。
「慣習法」も「法律」に含まれる,という考え方です。
<温泉権を認めた裁判例>
・高松高裁昭和56年12月7日
→後掲
・大判昭和15年9月18日(鷹の湯温泉事件)
「温泉権」を,一種の物権として,土地所有権とは独立した処分が可能とした。
・大判明治28年2月6日
「鉱泉採酌権」として認めた。
[民法]
(物権の創設)
第百七十五条 物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。
[高松高等裁判所昭和53年(ネ)第53号温泉所有権確認等請求控訴事件昭和56年12月7日]
(一)まず、本件温泉は、近隣の住民から「奥の湯」と呼称され、その湧出地である(一)、(二)の山林が部落の所有であるにもかかわらず、これを発見開発した左古家が、部落の承認のもとに、明治以前のかなり古い時代から長期間にわたって、独占的に利し用管理、しかも、そのことは、引湯管の敷設及び旅館営業によって、明確に外形的に認識しうるものであつたので、その独占的な利用管理は、部落の地域において、習俗的規範によるものとして一般的に承認されていたと推認できるうえ、本件温泉が旅館営業に供せられていたことや後に債権担保にも供せられていることにかんがみ、その経済的価値は高いものであったと認められるから、本件温泉については、遅くとも、光間が左古家の当主であった明治二〇年代前後頃において、泉源地である(一)、(二)山林の所有権とは別個独立に慣習法上の物権としての温泉権が成立し、これを光間が取得するに至ったとみるのが相当である。光間は、その後、前記イ、ロの湧出口がある(一)の山林の所有権を取得しているけれども、そのこと自体によって当然に、土地所有権から独立した物権たる右温泉権が消滅し或は単なる土地所有権の内容をなすにすぎないものに変質したとはいえないし、光間において、右所有権取得後、その所有権から独立したものである右温泉権を放棄したと認められるような事情も窺えず、むしろ、(二)の山林にある前記ハの湧出口の温泉を含め、従前と全く変りのない利用管理を続行していたのであるから、本件温泉権は、やはり、右のとおり(一)、(二)の山林の所有権とは別個独立の慣習法上の物権として存続していたとみるべきである。
【「物権」の強さ】
温泉権が「物権」だとどのように強いのでしょうか。
→湧出地所有者などの当事者以外(=第三者)にも「対抗」できたり,担保の設定ができたりします。
次のような事例で「物権」の強さが現れます。
<事例>
1 湧出地所有者等が,「湧出量を超える温泉の権利」を売ってしまった
→温泉の権利者は,全員が予定どおりの温泉供給を受けることができない
2 温泉の権利者が2重に「権利」を売ってしまった
→温泉の権利を買った者のうち,いずれかは「温泉の供給を受けられない」ことになる
この場合,いずれも「競合」が生じます。
「物権」であれば,「対抗要件」というシステムにより,優劣が決まります。
不動産の取引における「登記」と同じシステムです(民法177条と同様)。
逆に,取引をする当事者にとっては,代金支払時点で温泉権の「対抗要件」を得ておく,ということをしておけば,確実に権利を得られる,ということになります。
「債権」でも対抗要件のシステムはありますが,「当事者間の通知」がベースとなるので,確実性が劣ります(民法467条)。
また,「物権」の場合,担保に入れる,という使い方ができるようになります。
これも取引をする実情から,非常に便利な特徴となります。
[民法]
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
(指名債権の譲渡の対抗要件)
第四百六十七条 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
【温泉権の公示方法(明認方法)】
温泉権,は土地のように登記できるのでしょうか。
→「温泉権」の登記はできません。「明認方法」が登記の代わり,となります。
「温泉権」についての登記を認める法律がありません。
従って,当然ながら,法務局では扱っておりません。
そこで,登記に変わる公示方法が考えられました。
「明認方法」(めいにんほうほう)と呼んでいます。
判例上,いくつかの公示方法(明認方法)が認められてきました。
ただし,公示方法を認めない裁判例もありますので,有効性は100%ではないと言えましょう(裁判例後掲;この裁判例では「主張立証」の不備を理由に「温泉権」自体を否定している)。
<温泉権の公示方法(明認方法)>
・温泉台帳(保険所)への記録(記載)
→温泉名,所在地,掘削許可を受けた者の住所・氏名等が記載されている
・温泉台帳(温泉組合)への記録(記載)
・湧出施設に設置した看板
・湧出口・採湯場の土地,または湧出口を擁護する建物の所有権登記
→不動産の登記を温泉権の公示方法として流用(兼用)する
なお,「温泉地役権」という登記は認められています。
しかし,これは「温泉権」そのものの公示ではないので注意が必要です。
[福岡高等裁判所昭和32年(ネ)第161号温泉権確認使用妨害排除等請求控訴事件昭和34年6月20日]
ところで被控訴人の本訴請求は、本件鉱泉地を含む宅地の賃借権者であり、且つ同广温泉の利用権者である控訴人が被控訴人の前記温泉利用権を妨害したとして、該温泉利用権の確認竝にこれに対する妨害の排除を求めるものであつて、その趣旨とするところは本件温泉利用権をもつて、泉源地の所有権から独立して取引の目的とされ、しかも任意譲渡性を有し、且つ対世的な効力のある一種の用益物権であるとするもののようである。しかしこの種の権利を物権とするためには民法第一七五条の定める物権法定主義の建前から、右権利につき何ら成文法上の規定を有しない現行法制下においては、その根拠を専ら法律と同等の効力を有する慣習乃至は地方慣習の存在に求める以外にはない。そして右権利を泉源地所有権から独立した物権であるとすれば、必然的にその権利の得喪変更を第三者に明認せしめるに足る特殊の公示方法が要請せられるのであり、従つてそのような公示方法が同じく慣習によつて確立されていることが当然に必要となる。換言すれば一般に慣行づけられた公示方法の存在が認められる場合に、初めて慣習法による物権の成立を肯定することができるのである。しかるに本件においては、本件温泉利用権に関する右のような慣習、殊にその権利変動の公示方法に関する慣習の存することにつき被控訴人は何らの主張立証をもなさず、他にこれを肯認するに足る何らの資料も存しない。もつとも各成立に争のない甲第一四号証、乙第一、二号証によれば、明治四五年大分県令鉱泉取締規則による別府警察署備付の鉱泉台帳及び昭和二四年大分県訓令温泉法施行手続による別府保健所備付の温泉台帳に本件鉱泉地の鉱泉所有名義人の登録がなされている事実が認められるけれども、右台帳制度は温泉の濫掘防止や公衆衛生保健に関する取締等を主たる目的とするものと認められ、本件温泉所在地方において右台帳の記載をもつて温泉に関する権利変動の公示方法とする一般慣行の存する事実は未だ認められない。故に被控訴人が物権としての本件温泉利用権を有する事実を認めることはできず、またその取得時効の主張も本件温泉所在地方において慣習法による物権としての温泉利用権の存することを前提とするものであるから、これを採用することはできない。
次に被控訴人の本訴請求は、本件温泉利用権が鉱泉地所有者または泉源権者に対する債権的権利であることを前提とするものとすれば、前記認定のように右湿泉利用権は当初の泉源権者である訴外太田紹緒の設定に係るものであるが、同訴外人の右債務を第三者である控訴人が承継するに至つた事由については被控訴人の何ら主張立証しないところであるから、被控訴人が控訴人に対する人的権利として本件温泉利用権を有することも、未だこれを認めることはできない。
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