ダブル登記で有利に競売~流行らないTh原子炉~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

Q 不動産を担保にして融資している金融機関の者です。
  仮に将来競売することになった場合に,建物のテナント(賃借人)である料理店をそのままの状態で売却する,という方法を考えていました。
  可能でしょうか。

ちょっと高度は話しになりそうです。
抵当権者は建物占有者をどかすことに苦心することはよくあります。
今回はその逆の発想ですね。
ダメそうだけど,実はイケるんです!

誤解ありがち度 4(5段階)
***↓説明↑***
1 一般の方でもご存じの方が多い
2 ↑↓
3 知らない新人弁護士も多い
4 ↑↓
5 知る人ぞ知る

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A 競売しても引き続き賃貸借が継続する,という方法が開発されました。特殊な登記がカギです。

まずは,前提の基本知識から行きます。

【売買は賃貸借を破る】
アパートの大家がアパートを売ってしまい,新所有者から立ち退きを迫られた。
という想定で行きます。

直ちに出ていかなくてはならないのでしょうか。

→直ちには出ていく必要はありません。by枝野さん

「売買は賃貸借を破る」という懐かしい法格言があります。
賃貸物件が売買されて所有者が替わった場合,賃借人は新所有者に対して賃貸物件の使用を請求することはできないのが原則です。
「貸し借りの約束」をしたのは旧所有者であって,新所有者は何も約束していないからです。
しかし,これでは賃借人の立場が弱すぎる,ということで,一定の要件を満たせば新所有者にも「約束通り使わせろ」と言えるようになりました。
一定の要件とは,法律用語で「対抗要件」といいます。

【賃貸借の対抗要件】
→賃借権の登記または引渡を受けること

1つは賃借権の登記をすることです(民法605条)。
もう1つは,対象不動産の引渡しを受けることです(借地借家法10条,31条,建物保護ニ関スル法律)。
引渡とは,鍵を受け取り,その建物(アパートなど)に入居すれば,つまり引っ越すことです。
これで引渡しは完了です。
通常の賃借人は自動的に「対抗要件」を得ています。
ちなみに売買の対抗要件は「売買の登記」です。
売買の前から賃借人が居住している場合は賃借人が優先ということになります。
「売買は賃貸借を破る」はもう昔の話で,例外的な「売買は賃貸借を破らない」が,現在では多数派になっています。

【競売で購入した新所有者と賃借人との勝負】
抵当権が付いていた物件が競売された場合。
前から賃借していた賃借人 と 新所有者 どっちが優先?

→抵当権設定の登記と賃借人の入居の時期を比べて,早い方が優先です。

1 入居時期が先の場合
賃貸借契約は存続します。
原則として賃貸借は守られるのです。
法律上は,旧所有者から借りている状態と同じです。
更新拒絶や更新後の契約解除通知により契約が終了するリスクはあります(売却前も同じですが)。
一般的には,契約解除や更新拒絶の際は「明渡料」が支払われることが多いです。

2 抵当権設定時期が先の場合
賃貸借契約は実質的に終了します。
(元)賃借人は退去しなければならなくなります。
一般的には,「明渡料」の支払いはないのが原則です。
ただし,「短期賃貸借」として一定の保護を受ける場合もあります。
平成16年4月1日以前から入居していて,かつ契約上3年以内の賃貸期間である場合です。

【居住者なしが有利なワケ】
賃借よりも抵当権の方が優先だと「有利」です。

理由=新所有者が自由にその不動産を利用できるため,一般的に高く売却されるからです。

抵当権が優先だと,競売で購入した新所有者は居住者(元賃貸人)に退去請求ができます。
「占有権原なし」の状態,と言うこともあります。
理論上は空家と同じです。
新所有者がその後の利用方法を自由に決められることになります。
そのため,一般的には「優先する賃借権あり」よりも高く売却されます。

ようやく,前置き終わり!本題に入ります。

【本来負ける賃貸を勝たせたい】
入居が抵当権設定よりも後だと,賃貸が負け,
というのが長年のルールでした。
これが変わったんです!

おさらい的に想定を確認。

抵当権設定後に,優良テナントが賃借人として入居。
注文の多い料理店で大繁盛!

このテナントが入居したままの状態の方が高く売れると思われる。

・そもそも論
抵当権に負ける状態であれば,優良店が入居を躊躇する。

抵当権に勝てる状態にして,優良店の入居を勧誘したい。

【ダブルの登記で実現】
1 賃借権の登記
大家と賃借人の双方が協力する必要があります。
2 抵当権者全員の「同意の登記」
賃借権の登記の時点で既に登記されている抵当権者全員が,「競売後も残っていいですよ」と同意したことの登記です(民法389条)。

このダブルの登記,により,競売しても賃借権が存続することになります。

【敷金の登記】
以上の「ダブルの登記」で賃借権が保護されることに伴って,「敷金」も登記されることになりました。
不動産登記法の改正で,敷金が登記事項とされたのです(不登法81条4号)。

対抗要件を備えた最先順位で賃借権が登記されているか,抵当権者の同意の登記がされていると,抵当権が実行されても賃借権は存続します。
買受人が賃貸人の地位を引き受けることになるのです。
賃貸人の地位には,貸主として使用収益させる義務だけではく,明渡時に残存する敷金を返還する義務もあります。買受人が引受ける賃借権の内容を明確にするため,敷金の定めがあるときは,それが登記することとされました。
なお,敷金はその定めがあるときに登記事項とされるので,敷金の定めがないときは敷金を登記する必要がないのはもちろんですが,敷金の定めがあるときは必ず登記しなければなりません。

このように,使いやすいようにいろんな配慮をして法改正してがんばったのに・・・
まだまだ「ダブルの登記」あんまり使われていません・・・
アピールしたり,相談に応じさせていただいて,布教に協力したいと思う所存でございます。
良いシステムなのに誰も知らない・・・トリウム溶融塩原子炉と同じです。
Pu(プルトニウム)ができないから流行らないとか。
電力はPu生成の副産物,という過激な見解を聞いたことがあります・・・
無理やりの理系ネタでした。

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