大学の学費は特別受益?~おとんの希望~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

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大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
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多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

Q 父が亡くなりました。
  私(長男)は,医師であった父の医院を継ぐために,医学部に進学しました。
  弟は,私に対して,多額の学費は特別受益として持ち戻しをすべきだと言っています。
  やはり,持ち戻しが必要になるのでしょうか。

今日は,特別受益に関する質問をピックアップ。
多額の学費を出してもらっているので,「特別な受益」があったとして,遺産分割の計算上,遺産として計上する(持ち戻す)という主張が弟さんからされているようです。

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A 大学の学費は「特別受益」には当たる可能性が高いです。大学時代の仕送り(生活費)は当たらないという判断が多いです。

歯科医師の息子が歯学部に進学したケースについての裁判例を参考にします。末尾引用。

このケースでは,浪人を1年して,大学卒業後の予備校に2年通いました。
このように,余分に学費がかかった,ということもあり,弟が持ち戻しを主張したわけです。

「特別受益」は文字通り,「特別な受益」に当たるかどうかです。

この裁判例では,最終的には,
1 学費など→○(特別受益である)
2 生活費→×(特別受益ではない)

ポイントは「通常要する以上の費用」かどうかです。
「通常要する」の解釈です。

歯学部で学費が高かった+平均的ケースよりも長くかかったのでより高くなった
 →「通常要する範囲外」

生活費も長期間なので高かった
 →しかし,父(被相続人)は裕福だった + 歯科医師を継ぐことが父の希望だった
 →「通常要する範囲内」

ここの,個別事情を拾っているところをクローズアップ。

1 元々被相続人(父)が裕福であったこと。
ということは,生活費は確かに高い(長期間)けれども,そこまでアンバランスにはならない,ということです。
持ち戻しによる修正の必要性はやや低いことになります。

2 歯科医院を継ぐという目的。
要は,父の希望でもあった,ということです。
ということは,単に兄のわがままだけによって資金を使った,ということではありません。
本人はあまり歯科医師になることに消極的で,お父さんが強く希望していた,という背景が出てきています。
父の希望,という点もやはり,持ち戻しの必要性が低いということになります。

結局は,「多額になってしまった長期間の生活費」と一言に言っても,このように,その進学の経緯・目的・被相続人の意向により,「特別受益」に該当するかどうかがケースバイケースで判断されるのです。

・・・ということは。
お父さんの立場に立つと。
将来,自分の死後,相続で兄弟が紛争になることを極力避けたいですよね。
そのために,遺言に,「長男が歯学部に行ってくれたのは私の頼みを聞いてくれたからなんだ」ということを書いておくと良いのでしょう。
本来,遺言は遺産の処分方法を書いておくものですが,このような「工夫」を盛り込むこともできるのです。

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【東京高等裁判所平成17年10月27日(抜粋)】
ウ 相手方の特別受益について(その2)
  一件記録によれば,相手方につき次の事実が認められる。
 (ア) 相手方(昭和36年×月××日生)は,昭和51年4月,○○高校に入学し,1年で中退後に都立△△高校に入学し,昭和55年3月同校を卒業し,大学受験に失敗し3年間浪人し,大学受験予備校である○△□に通った後,昭和58年4月,○○○○大学に入学し,留年したり卒業できなかったことから,在学生活が長引き,平成6年3月に卒業し(通常は6年間で卒業できるところ,5年間余計に在学期間を要した。),歯科医師国家試験に2年続けて不合格となり,国家試験予備校に通い(2年間余計に期間を要した。),平成8年4月に歯科医師の免許を取得したが,相続開始時までの間,無収入であり,被相続人から上記歯科医師になるため,抗告人に要したような通常要する費用以上の負担をしてもらった。また,被相続人は,代金を負担し昭和58年に乗用自動車(口口口口口),平成5年に乗用自動車(○○○○○)を購入し,もっぱら相手方に上記自動車を使用させていたものであり,いずれも生計の資本としで付与されたものというべきであるから,以下の合計額3001万円(相続開始時における評価額)が特別受益と認めることができる。
(イ) その具体額は次のとおりと認められる。
 a 大学受験予備校に通学した学費(3年分)     192万円
 b 大学受験料3年分                 64万円
 c 大学授業料(平成元年度から平成5年度までの授業料)    850万円
 d 大学5年間の生活費 月額12万円        720万円
 e 国家試験受験予備校の費用(授業料年額180万円の2年分。夏期講習20万円) 380万円
 f 国家試験受験中(2年間)の生活費 月額12万円 288万円
 g 自動車2台                   402万円
   維持費(自動車税等)              105万円
                       合計 3001万円
(ウ) 他方,抗告人は,相手方が要した高校留年期間1年間や予備校3年間の生活費を特別受益に当たると主張するが,高校を卒業するのに4年を要し歯科大学合格のために3年程度を要することは一般にありうることであり,被相続人が開業医であったことを考慮すると,その間の生活費の負担は扶養義務の範囲というべきであり,生計の資本としての贈与には該当しない。抗告人が主張する補欠入学時に入学金を負担した事実は認めるに足りる的確な証拠がなく,抗告人と相手方の大学学費の差額(正規の課程である6年間の分)はやむを得ない負担であり,いずれも特別受益に当たらず,卒業時の教授への謝礼を負担した事実は認めるに足る証拠がない。また,マンション賃料(1年分)は,相手方にもっぱら使用させるため被相続人がマンションを賃借したとまで認めることができないのであり,その賃借が相手方への利益の提供であるとは認められない。歯科医師国家試験の資料費は,生活費として考慮し,ガレージの拡張工事費用及び部屋改装費の負担は具体的な支出額を認めるに足りる証拠がなく,生計の資本としての贈与といえるものであるか明らかではない。抗告人が主張する生計の資本の贈与にあたる動産類の贈与があったと認めることはできないし,遺産である借地につき相続後に支払った借地料が特別受益に当たらないことは明らかである。