礼。
夜の駐車場。
何台か止まっている車のうち1台から、
男女の声だけが聞こえる。
夜の静けさのせいなのか、
そんなに大きくない声なのに言葉の一字一句まで、
細やかな息づかいまでも聞こえてきてしまう。
「ケチケチしないでちゃんとつけてね」
「こんな感じかな?」
「じゃあ今日は○○くんが上ね。」
「さあはじめるよ。それっ!」
時折2人の吐息が聞こえる中、車がユサユサと揺れ始める。
「もっと右も。ハァハァ」
「こっち?」
「うん、そう、そこ。」
「あ、ちょっと優しくぅ。結構デリケートなんだから。」
「ごめん。」
しばらくして…
「もっと奥まで。ハァハァ。」
「え、届かないよ…」
「気合いよ、気合い!ほら、頑張って!」
「いくぞ、おりゃっ!」
「もっと、もっと、ハァハァ、腰入れて…」
「とりゃああ!」
「そう、そう、やればできるじゃない!」
車は先ほどより小刻みにしかし力強く揺れ動いている。
そして…
「もうだめだぁ!限界!あっ」
「キャー!」
一瞬の沈黙ののち…
「あ、こぼれまくり。何やってんのよ!
あれだけ気をつけてって言ったのにもう、
パンツにも靴にもかかっちゃったじゃない…
汚れてもいいやつだからいいけど。」
「ごめん、今から拭くから。」
「ちょっと、何で拭いてるのよ!
これで拭けばいいじゃない、もう!」
その様子が気になって仕方ないが、
わざわざ見に行くわけにはいかない。
自販機に行くふりをして遠巻きに様子を見ると…
「今日はおしまいだね。」
「○○くんの方は最後までいったみたいで
終わったつもりなんだ。
私の方は途中で強制終了なんですけど。」
「続きは俺が…」
「全部出ちゃったのにどうやってすんのよ。」
「ごめん…」
見て見ぬふりをしている視線の端には、
白濁した液体の後処理に勤しむ男女の姿がありました。
飲みたくもないコーヒーを自販機で買って車に戻る。
後ろからまた声が聞こえてくる。
「○○くん、ごめんね。
ちょっと言いすぎちゃった…。
カー○ックス初めてだったんだもんね。」
「ううん、俺、もっと頑張る!」
「慣れてきたらオイルとかもやるんだからね。」
○○くんにとって忘れられない
“はじめてのカーワックス”
となりました。
めでたしめでたし。
ちなみに私は洗車機の自動ワックスはありますが、
手でワックスをかけたことはありません。。。。
礼。