本日、深谷もやしを扱っている地元の産直店「とんとん市場」へ納品の際、一つの挑戦をしてみました。ブラックマッペもやしの収穫のとき根の部分だけをかき集めて、販売してみたのです。


一袋、200gで「50円」。みなさまはこの商品をどう思われますか?

 国内のもやしに関して、根の部分は本来なら商品価値がないとされています。現在主流である「緑豆太もやし」は栽培室の大気中に植物成長抑制ホルモン「エチレン」を効率的に混ぜることによって、茎は太く根を短くしたものです。そのもやしをさらに洗浄後に「根を除去する装置」を通すことで、細い根の部分はほとんど取れるわけです。みなさまがスーパーなどで見かけるもやしはほとんどがこういう過程を経ているものです。この流れでいきますと「もやしの根は不必要な部分」とみなされても仕方がありません。こういった風潮ですから、根を長いままもやしを出荷している私自身、取引先やお客様から

「今はこんなのは売れない」

「こういうのはもやしじゃない」

「歯に詰まるからいやだ」

「うちはいつももやしの根をとっている。大変な手間だ。根のないもやしを作ってほしい」

といったお叱りやご意見・ご要望をいただきました。こういった風潮ですから、もやしのレシピ特集では「できればひげ根をとり…」と前置きされたり、そいったレシピを読んだ一部のお客様が「もやしの根は毒なのか?」と誤解をするわけです。

 ただもやしの根は、人間とって不必要でしょうが「もやしとっては水分を吸収するこれほど重要な器官」はないわけです。味の点でも野菜の成長点と言われる部位でありますので、もやしの味の濃さはこの部分に凝縮されていると言っても過言ではありません。もやしの根から旨み、出汁がでる、とは多くの料理人が認めています。糸のように細い野菜でありますし、調理時間も熱湯をかけるくらいです。ラーメンや味噌汁といった汁系の食べ物に使うと強い風味を放ちます。きんぴらの具材としても最適ですし、それこそさっと茹でたもやしの根っこにドレッシングをかければ相当美味しいサラダになるでしょう。

「もやしの根は不必要どころか旨い」

…これが生産者である私の信じるところです。

「生産者が信じる正しさ」と、「販売者、消費者の信じているものの乖離」はなんとしても埋めねばなりません。作り手と食べる人が離れていてはいけないのです。正しい食を普及させたければ、まずは作り手と食べる人の共通理解が不可欠なのです。もやしの根をかき集めるのは手間のかかる作業です、がこれが出来るのはもやし生産者しかいません。そしてあえて本日、「もやしの根っこの商品化」に挑んだわけです。

 現在、深谷市近辺のスーパーのもやしの売価は「200g 19円」が基本です。すべて大手もやし会社が生産する「緑豆太もやし」です。私は本日彼らが通常棄てている「もやしの根」を「200g 50円」で販売しました。50円はほとんど手間代です。とりあえず4つだけ作って並べました。そして納品して30分ほどで、私が見ている前でバタバタと3つお買い上げいただきました。私はお客様に近づきお礼と、美味しい食べかたを伝えました。

 「もやしの根っこ」に関しては、もちろん個人の嗜好も考慮したうえで、ただし今までの扱いの大部分は誤解と偏見によるものであると思います。いつのまにか作られた「誤解と偏見」に対して生産者が違うというのを諦める、もしくは(己の不利益を恐れて)黙って従うことで、「誤解と偏見」の流れを肯定するのは消費者にとって良い、とは私には思えないのです。