☆夫婦の健康状態がお子さんに影響する? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、夫婦の健康状態がお子さんに与える影響を調査したものです。

 

Fertil Steril 2018; 109: 315(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.10.009

Fertil Steril 2018; 109: 248(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.11.019

要約:2008〜2010年ニューヨーク近辺の57箇所で、生後4ヶ月のお子さんのいるご家庭を対象に、夫婦の健康状態及びお子さんの出生時の状態について質問票調査を行いました(Upstate KIDSスタディー)。回答は4886組の夫婦からあり、合計5845名のお子さんについて、解析しました。両親の慢性疾患の頻度は、地域により1%未満から19%であり、不妊症の頻度は21〜54%でした。母親の高血圧と喘息はお子さんの出生時体重と負の相関を示し、母親の腎臓病はお子さんの頭周囲長の減少と相関しました。一方、父親の自己免疫疾患はお子さんの頭周囲長の増加と相関しました。また、不妊症はお子さんの出生時体重、出生時身長、頭周囲長と負の相関を示しました。

 

解説:生殖医学会年齢の夫婦の慢性疾患の存在は、精液所見低下、不妊症、不育症に関連するのではないかとされており、不妊症や不育症は、生まれつきのものではなく後から現れるものと考えられています。この件について、これまでにも小規模の報告はありましたが、多くの報告では母親の健康状態についてのものであり、父親の健康状態を調査したものはありませんでした。本論文はこのような背景のもとに行われた過去最大規模の報告であり、夫婦の健康状態がお子さんの出生時の体重や頭周囲長と関連することを示しています。ただし、慢性疾患の有無や出生時の情報は全て回答者の記憶に基づく報告であり、カルテを参照したものではありませんので、データの正確性については疑問が残ります。また、このような検討では因果関係は不明であり、あくまでも関連性を示したものに過ぎませんので解釈に際して注意が必要です。

 

さて、なぜ夫婦の健康状態がお子さんに影響するのでしょうか。もちろんまだ明確な答えはありませんが、コメントでは、遺伝的な要因のみならず、胚の質の低下、胚発生の問題、着床への影響などが考えられるのではないかとしています。夫婦ともに良好な健康状態を維持することが妊娠を目指す際に大切なことだと考えます。