このような統計をご存知でしょうか。
一般の方が妊娠するまでの期間をプロットすると、下記のグラフのようになります。
最初の半年は月に8%ずつ妊娠しますが、その次の半年では月に4%に低下し、次の1年では月にわずか1.5%、このように時間が経つにつれ妊娠率が低下してきます。
このような統計学的データをもとに、不妊症の定義が決まりました。
なぜ統計のデータから不妊症の定義が決まったのでしょうか。
実は、不妊原因を検査しても、現在の検査で異常が見つかる方はわずか半数だからです。
検査をしたくてもできない場所があるのです。
その理由を知るためには、妊娠の成立の仕組みを知る必要があります。
まず、男性から見てみましょう。
膣に射精された精子は子宮を通り抜け、卵管の先端にある卵管膨大部(赤丸の部分)で卵子と出会います(⑤)。精液検査(①)をすれば精子の状態はある程度わかります。また、フーナー検査をすれば精子が子宮頸管(黄色の部分)まで来ているかわかります。しかし、その先どこまで精子が入っているか(②)は調べることができません。
女性ではどうでしょう。
卵巣で卵胞が発育し、排卵します(③)。全ての卵胞に卵子が入っているわけではありませんが、現在の超音波で卵胞内の卵子の有無を知ることはできませんし、卵子の質もわかりません。次に、排卵された卵子をうまく卵管でキャッチする必要があります(④)。よくピックアップ障害という言葉が言われますが、卵子を卵管がキャッチする瞬間を捉えた方はおりませんので、どのような条件があれば良いのか、あるいはどのような条件があると悪いのかはわかっていません。次に、卵管に取り込まれた卵子が精子と出会います(⑤)。この場所で受精が起きる訳ですが、受精の確認は身体の外からすることはできません。受精卵は細胞分裂を続けながら、卵管を移動します(⑥)。しかし、ここでもその様子を伺い知ることはできません。そして、排卵から約1週間後に着床します(⑦)。しかし、着床したかどうかも知ることができません。着床から2〜3週間後に初めて妊娠ホルモン(hCG)や超音波検査で妊娠したかどうかが判断できます。
つまり、ABの部分は、男女ともに調べられない場所となります(上図②〜⑦)。この部分が最も肝心なのですが、肝心な場所が調べられないため、検査で不妊原因が判明する方が約半数になってしまうのです。
なお、体外受精を行うと上図の①〜⑥をカバーすることができます。調べられないところを身体の外で行う作戦です。しかし、体外受精をもってしても⑦の着床の部分はカバーできません。着床障害の原因は未だに未知の領域なのです。