Fertil STeril 2017; 107: 189(デンマーク)
要約:1973~2008年にデンマークで生まれた男児1,217,576名を2011年まで追跡調査しました。このうち28,986名(2.4%)の母親は、妊娠1年前から妊娠中に身内の死を経験していました。お子さん(男児)の生殖器異常があり(生殖器奇形、精巣癌、男性不妊)との判断は、病院への通院記録から確認したところ、62,929名(5.2%)に問題がありました(平均観察期間は18.5歳、最長39歳)。妊娠1年前から妊娠中に身内の死を経験した母親から生まれた男児は、そうでない男児と比べ、生殖器異常があるリスクが1.09倍に有意に増加しました。特に、妊娠初期の身内の死で顕著(1.24倍)でした。しかし、男性不妊に限って検討したところ、母体の身内の死によるリスク増加を認めませんでした。母体の身内の死を経験した群では結婚率が0.93倍に有意に低下していましたので、これは妊娠をトライしていないだけで、本当は男性不妊増加があるのかもしれません。
解説:デンマークは高度生殖補助医療(ART)を受ける率が世界で最も高く、2014年の統計では全体の8%がARTによる妊娠・出産となっています。顕微授精はその半数で行われており、男性不妊の方も少なくありません。男性不妊の真の原因は不明ですが、精巣形成不全症候群(Testicular Dysgenesis Syndrome, TDS)の概念が北欧諸国で提唱されました。TDSは、精子数減少、精巣癌、尿道下裂、停留精巣の4つの男性の生殖器異常を指します。本論文は、妊娠1年前から妊娠中に身内の死を経験した母親から生まれた男児のTDSを調査した国家レベルの研究です。女児の場合と異なり男性不妊のリスクを示すことはできませんでしたが、母体の身内の死はTDS増加をもたらすことを示しています。
要約:1973~2008年にデンマークで生まれた男児1,217,576名を2011年まで追跡調査しました。このうち28,986名(2.4%)の母親は、妊娠1年前から妊娠中に身内の死を経験していました。お子さん(男児)の生殖器異常があり(生殖器奇形、精巣癌、男性不妊)との判断は、病院への通院記録から確認したところ、62,929名(5.2%)に問題がありました(平均観察期間は18.5歳、最長39歳)。妊娠1年前から妊娠中に身内の死を経験した母親から生まれた男児は、そうでない男児と比べ、生殖器異常があるリスクが1.09倍に有意に増加しました。特に、妊娠初期の身内の死で顕著(1.24倍)でした。しかし、男性不妊に限って検討したところ、母体の身内の死によるリスク増加を認めませんでした。母体の身内の死を経験した群では結婚率が0.93倍に有意に低下していましたので、これは妊娠をトライしていないだけで、本当は男性不妊増加があるのかもしれません。
解説:デンマークは高度生殖補助医療(ART)を受ける率が世界で最も高く、2014年の統計では全体の8%がARTによる妊娠・出産となっています。顕微授精はその半数で行われており、男性不妊の方も少なくありません。男性不妊の真の原因は不明ですが、精巣形成不全症候群(Testicular Dysgenesis Syndrome, TDS)の概念が北欧諸国で提唱されました。TDSは、精子数減少、精巣癌、尿道下裂、停留精巣の4つの男性の生殖器異常を指します。本論文は、妊娠1年前から妊娠中に身内の死を経験した母親から生まれた男児のTDSを調査した国家レベルの研究です。女児の場合と異なり男性不妊のリスクを示すことはできませんでしたが、母体の身内の死はTDS増加をもたらすことを示しています。
身内の死は人生で最も大きな心理的ストレスです。妊娠1年前から妊娠中の母体の心理的要因が、次の世代に影響を及ぼすとしたら、その時期の過ごし方にも工夫が必要になるでしょう。私はこれまで外来で、心配すると子宮の血流が低下するので「なるべく心配しないように」とアドバイスしてきました。不安や心配と子宮の血流低下は医学的に証明されています。身内の死による影響が子宮の血流低下を介したものなのか、別の作用機序なのかは不明ですが、女性の心理的要因は決して侮ることができないもののようです。「なるべく心配しないように」と言っても、心配性の方は全ての現象をいちいち心配してしまいます。心配しないで「おおらかな」気持ちでいることは、「ニュートラル」な気持ちにもつながります。生まれてくる赤ちゃんの将来のためにも、ぜひ「おおらかに」過ごして欲しいと思います。
下記の記事を参照してください。
2013.10.30「無精子症の男性は癌になりやすい?」
2013.7.31「☆精巣形成不全症候群(TDS)」
2013.2.11「精液所見が良いと健康的で長生きする」