Dr.Mの診療録 その1:産科は若い頃の体力勝負 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

産婦人科医は、色々と興味深い場面に遭遇します。人生の裏側から男女を見ているような診療科だからです。今日から始まる「Dr.Mの診療録」は、私の経験の一部を記したものであり、実際の患者さんを診療した記録です。しかし、個人情報保護の観点から、多少の脚色があり、実際とは幾分場面を変えてありますので、ご了承ください。

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若い頃、年間2500件ものお産を取り扱っている病院によく当直に行っていた。当時勤務していた大学病院は無給で、外の病院の当直に行かなければ生活できなかったからだ。そこは忙しすぎて、今から思うと先輩にだまされていたような気もするが、実際には短期間で多くのお産を経験する事ができとても勉強になった。年間2500件ということは、1日8件のお産がある計算である。夜7時から翌朝7時までの12時間で、4件のお産がある計算だ。しかし実際、自然に任せるとお産は午前3〜4時頃に多いという。つまり真夜中に生まれる確率が高いので、一晩で6〜8件のお産もざらにあった。そこの病院では助産師さんのトレーニングが非常に行き届いていたので、「お産です」と呼ばれて行くと、丁度まさに生まれようとしている状態で、お産をしたらすぐまた仮眠するという具合である。一晩働いて翌日は大学病院の普通の勤務であるから、なるべく体を休めたいので、非常に効率が良かった。助産師さんの力量(判断)によっては、「お産です」と呼ばれて行っても2時間位生まれない事も他の病院ではよくある事で、そういう意味では助かっていた。平日の当直の場合、昨晩は5件生まれたなと数が数えられるのであるが、土日当直ではもはや不可能である。土曜の夜7時から月曜の朝7時まで36時間の耐久レースとなる。いつ生まれていつ寝たのかもさっぱりわからないまま、月曜の朝を迎える。後で助産師さんの記録を見ると、15件あって1件帝王切開だったことがわかる。もうへとへとである。今、この病院の当直をやって欲しいといわれてもできないと思う。最近の若い医師はこのような生活を好まないから、産婦人科医は減ってしまう。その結果、お産を行える場所も減ってしまう。今ではこの病院も分娩件数を減らしていると聞いている。