Q&A1307 年齢制限は正当な理由か? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 2016.10.14のニュースで、中国で腎臓移植した男性が浜松医大で診療を拒否され、医師法違反で提訴したとありました。その記事の中に医師法では正当な理由なく診療を拒んではならないと定めてあると書かれていました。
日本の不妊治療を行っている病院の多くは年齢制限を設けていますが、このように高齢を理由に年齢制限し、実質診療を拒む行為は医師法の正当な理由に該当するのでしょうか。それとも不妊治療は病気ではないとの位置付けで、この医師法は適用外なのでしょうか。もし、これが正当な理由に当たらないのであれば、年齢制限を設けている病院も訴えられる可能性があるのではないでしょうか。

A   確かに「
医師法19条(応召義務等):診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と記載されています。診療拒否については、白黒はっきりできない部分があると思います。特に、自費診療では尚更です。まず、正当な理由とは何かという根本的な問題から考えなければなりません。米国のような訴訟社会では、ルールは曖昧なままでも構わず裁判で判断されますが、日本ではそうではなく、ルールが曖昧な場合は自主規制のような格好になっています。

正当な理由に該当するものとして、下記の関連通知文から、5項目にまとめられます。○昭和 24 年 9 月 10 日医発第 752 号「病院診療所の診療に関する件」○昭和 30 年 8 月 12 日医収第 755 号「所謂医師の応招義務について」○昭和 49 年 4 月 16 日医発第 412 号「医師法第十九条第一項の診療に応ずる義務について1 社会通念上道徳的に健全と認められる場合2 診療時間外であって軽度な患者の診療拒否3 地域で休日夜間診療体制が敷かれており、かつ軽傷である患者の診療拒否4 医師の不在・病気で事実上診療が不可能な場合5 標榜診療科以外に属する疾患であり、患者が了承した場合(但し出来る限りの事をする必要はある)つまり、軽傷な患者であって、他の患者・医療従事者への迷惑・暴力行為(道徳的に健全とは 言えない患者)を行う場合には診療拒否も行えるのではないかと考えられています。

この記載内容を見ると、明らかに「病気」の方を対象とした記述です。したがって、自費診療である生殖医療に直接あてはめるには無理があります。

 

では、生殖医療の分野ではどのように考えたらよいでしょうか。日本産科婦人科学会は、凍結胚の保存期間を生殖年齢までと記載しています。さて、生殖年齢とは何歳までなのでしょうか。実は明確な答えはありません。たとえ閉経していても、凍結胚移植で妊娠が可能だからです。したがって、クリニックによって生殖年齢を個別に設定しているとすれば、診療拒否とはいえないのだと思います。しかし、逆に言えば、年齢制限を設けているクリニックは、クリニックの実力がそこまでしかないことを暗に語っているようなものです。その目的は、見かけの妊娠率を上げるためかもしれません、卵巣機能が低下した方への対処法をご存知ないのかもしれません。以上のことをお考えいただくと、訴えるとか訴えないとかではなく、クリニックの選択は自ずと明らかになると思います。