Q&A1115 ☆造影剤で甲状腺機能異常? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 夫30歳、妻34歳、結婚2年
避妊解除6カ月で妊娠しないため、レディースクリニックを受診しました。ホルモン検査は異常なし、フーナーテストは不良で、精子は全滅だったため、妻側の抗精子抗体を調べましたが陰性でした。また、精子検査は運動率45%で問題なしとのことでした。
今度、卵管造影検査を勧められましたが、夫より最近の学会で卵管造影検査により、新生児の甲状腺機能が異常をきたすとの報告があるため、通水検査を勧められています。私としては、みなさんがしているように卵管造影検査を希望しているのですが、児への影響については産科的にはどう考えられていますか。

A 最近、卵管造影検査の油性造影剤(リピオドール)と母児の甲状腺機能低下症との関連が報告されています。いずれも日本からの論文です。

①Horm Res Paediatr 2015; 84: 370(日本)
要約:油性造影剤(リピオドール)による卵管造影検査後に誕生した212名の児の甲状腺機能を調査したところ、5名(2.4%)にスクリーニング検査で甲状腺機能低下症を認めました。これは、一般集団の0.7%より高率でした。5名のうち4名の児から、尿中のヨウ素が検出されました。また、甲状腺機能低下症を認めた5名では、認めなかった207名より有意に多くの油性造影剤を使用していました(20mL vs. 8mL)。

②J Clin Endocrinol Metab 2015; 100: E469(日本)
要約:甲状腺機能正常な不妊症女性22名に、油性造影剤(リピオドール)による卵管造影検査を行い、1、2、3、6、9、12ヶ月後のヨウ素濃度と甲状腺機能を調査しました。尿中および血中ヨウ素濃度は4ヶ月後をピークとして減少しましたが、6ヶ月後までは有意に高い濃度を示しました。fT3とfT4に有意な変化を認めませんでしたが、3名でTSHの値が2ヶ月間5.0以上となりました。

③Gynecol Endocrinol 2008; 24: 498(日本)
要約:不妊症女性214名に、油性造影剤(リピオドール)による卵管造影検査を行い、甲状腺機能を調査しました。卵管造影検査実施前の甲状腺機能から3群(機能正常180名、潜在性機能低下28名、潜在性機能亢進13名)に分け検討しました。卵管造影検査実施後に甲状腺機能低下症をきたしたのは、潜在性機能低下群35.7%(10/28)が、機能正常群2.2%(4/180)より有意に多く認められました。チラージン投与が必要となった方は潜在性機能低下群に3名おられ、最大5ヶ月後までの使用を必要としました。

解説:以上の論文をまとめると、①油性造影剤を使用する場合には最小限に留めること、②油性造影剤を使用した場合には甲状腺機能低下に2~6ヶ月は注意を要すること、③油性造影剤を使用する場合には、実施前に甲状腺機能の採血を行い潜在性機能低下群を把握することでハイリスクの方を見極めること、となります。

ご注意いただきたいのは、これらの現象は全て油性造影剤(リピオドール)において認められることです。したがって、水溶性造影剤を使用する場合には、このような問題点は指摘されていません。これは、油性造影剤(リピオドール)は残留し、水溶性造影剤はすぐに排出されるという違いがあるからです。なお、当院では水溶性の造影剤(健康保険適応)を用いて卵管造影検査を行っておりますので、ご安心ください。また、通水検査での診断精度はわずか20~30%ですので、ぜひ卵管造影検査(診断精度90%)を行って欲しいと思います。