☆太ると着床障害になる? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2016.3.20「☆AMH<0.16の場合の治療成績」の手法と全く同様にSARTのデータを後方視的に分析した、全米におけるBMIによる妊娠成績の調査をご紹介します。

Fertil Steril 2016; 105: 364(米国)
要約:2008~2010年のSART(全米ART協会)の登録データのうち、ドナー卵子を用いた体外受精22,317名の成績をレシピエントのBMI別後方視的に分析しました。正常BMI群、低BMI群と比較し、BMI増加に伴い着床率、臨床妊娠率、生産率が有意に低下しましたが、流産率には有意差を認めませんでした。

BMI   <18.5 18.5~24.9 25~29.9 30~34.9 35~39.9 40~44.9 45~49.9 50<
着床率  0.99   基準    0.99   0.95   0.98   0.94    0.95  0.86
妊娠率  1.00   基準    0.93   0.78   0.88   0.83    0.65  0.46
生産率  1.03   基準    0.90   0.75   0.87   0.65    0.74  0.41

解説:BMI増加が妊娠に及ぼす悪影響についてはよく知られていますが、そのメカニズムについては明らかではありません。BMIによる妊娠を妨げる可能性として、卵子への影響と子宮内膜への影響が考えられます。たとえば、BMI増加により卵子の質が低下するという報告、卵胞液の変化や卵胞内代謝の変化が報告されています。しかし、高BMIの女性の卵子の染色体異常(異数性)は増加しないという報告が最近あり、子宮内膜側の要因がクローズアップされています。本論文の研究は、このような背景のもとに行われました。卵子と内膜の要因を別々に検討する最良の方法は、それぞれを別のヒトで行うこと、すなわちドナー卵子を用いることです。そこで、本論文では、SARTの登録データを用いて、過去最多のデータを分析し(これまでには2千~9千余名の検討)、BMI増加に伴う着床率低下を示しています。

このような国家規模の統計が最近の論文によくみられます。ひとつのクリニックからのデータでは、このように説得力のあるデータは出てきません。当然、一人一人の患者さんの経験はその方だけのものですので、有効な治療を論じるためには症例数が重要であることを痛感します。