医療経済学からみた1個胚移植と2個胚移植 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、米国における医療経済学からみた1個胚移植と2個胚移植を比較したものです。

Fertil Steril 2016; 105: 444(米国)
要約:2012~2013年の米国の国家統計から、35歳未満で初回体外受精実施の方を対象に、体外受精の費用から生まれた赤ちゃんにかかる費用までを合算し、1個胚移植と2個胚移植のどちらが医療経済学的に優れているかを検討したものです。具体的には、採卵1回で、新鮮2個胚移植(10,001名)と新鮮1個胚移植+融解1個胚移植(4,129名)の比較を行いました(2回目の移植は1回目で不成功の方のみ)。なお、費用の計算には2012年の米国の平均的な医療コストを用いました。採卵して新鮮胚移植にかかる費用は1回15,715 USD、融解胚移植にかかる費用は1回3,035 USDです。また、単胎の赤ちゃんにかかる費用は28,829 USD、ふたごの赤ちゃんにかかる費用は123,402 USD、みつごの赤ちゃんにかかる費用は465,464 USDです。以上から計算した医療費は下記の通りです。

     2個胚移植     1個胚移植
単胎   33.0%      49.2%
ふたご  24.0%       1.0%
みつご   0.7%       0.1%
出産率  57.7%      68.0%(累積)
医療費  58,087 USD   38,600 USD

つまり、2個胚移植より1個胚移植の方が、出産率も良く、医療費も少なくなりました。

解説:本論文は、米国における医療経済学から、1個移植が2個移植よりも優れていることを示しています。しかし、米国は医療費が世界一高い国です(採卵1回170万円、ふたご医療費1400万円)。この国の医療経済学は金銭感覚が他国とは全く異なりますので、あくまでも参考意見としてみておくのがよいと思います。日本の現状にはそぐわないデータですので、このような検討をぜひ日本でも行って欲しいものです。

ふたごの妊娠は母子のリスクが2~16倍になります。それに伴い医療費が増加します。米国では、未だに2個胚移植がスタンダードであり、1個胚移植の導入が遅れています。本論文は、1個胚移植の導入を積極的に進める上で重要なデータとなりますので、そういった意味では貴重な論文です。