ムカデに噛まれて、、、 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

私は10年ほど前からガーデニングを趣味としており、休日は家庭菜園や芝生の手入れをしています。

先日、ガーデニングの後、家の中でムカデを発見しました。多分服にくっついて入ってしまったと思います。殺虫剤を使う、あるいは潰してしまうという選択もあったのでしょうが、その時は何故か生け捕りにして外に逃がしてやろうと思いました。ティッシュで捕まえようとしましたが、なかなか捕まえられず、やっと捕まえた瞬間にガブリと指を噛まれてしまいました。6~7cmくらいのふつうのムカデで、噛まれた所も細い針穴程度であり、何て事ないとたかをくくっていたら、とんでもないことになりました。

すぐに外出しなければならなかったので、まず流水で患部を洗い、消毒液をつけて、車に乗りこみました。刺すような痛みが運転中ずっと続き、時折消毒液をつけていましたが、つける度にまた痛くなり、少しおさまり、また痛くなりの繰り返しでした。用事を済ませて1時間後に帰宅しましたが、まだ痛みはいっこうに収まりません。噛まれた指は赤く腫れ上がっていました。

帰宅してすぐネットで「ムカデに噛まれた時の対処法」を検索しました。ムカデの毒は熱に弱いので、43~46℃の温水シャワーで20分程洗うと毒の成分である酵素活性が落ちるとのことでした。冷やすのは禁忌とあります。その後は、医師の診察を受けましょうと書いてありました。温水で洗っていると徐々に痛みが和らいできましたが、時折ジンジンと痛みが襲ってきます。冷たい消毒液を使ったのは逆効果だったと反省しました。ムカデの毒の正体は、ヒスタミン、セロトニン、細胞破壊酵素です。ヒスタミンは痛み物質ですが、抗ヒスタミン剤で中和できるはずで、その他の炎症成分も抗炎症作用のあるステロイドで治療できるはず、医師の診察ではおそらく抗ヒスタミン剤とステロイドの外用薬が処方されると考え、指に塗りました。先ほどまでの痛みは格段に緩和され、自らの判断の正しさを感じました。しかし、この痛みが完全に引くまでに半日を要したのです。

針穴程度の傷の痛みが半日続くことは信じがたいわけですが、私はここに生物の生きる力の仕組みを感じました。自然界で生きて行くためには、外敵から身を守る方法を身につけている必要があります。そうでないと絶滅してしまうからです。小さな昆虫も何かしらの防御力あるいは攻撃力を身につけているはずで、それがムカデでは噛んだ時にでる毒なのです。ヒトの指1本が半日も腫れて痛いほど有効な毒であるならば、同じ大きさの昆虫にとっては極めて大きなダメージだと思います。ムカデの毒は、ヒスタミン、セロトニン、細胞破壊酵素である、つまり1種類ではないことも肝腎なことだと考えます。ヒスタミン、セロトニンは痛み物質です(その他の役割もあります)。細胞破壊酵素により細胞を壊したところに痛み物質を擦り込む、つまり傷口に塩を塗るようなイメージです。これが半日の痛みの正体です。

ヒスタミンやセロトニンはヒトも持っています。ムカデのような小さな動物に備わっているヒスタミンやセロトニンが進化した動物であるヒトにも備わっていることは、生物にとって極めて重要かつ基本的な物質であることを意味します。ヒスタミンはアレルギー反応、血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進に関係する物質、セロトニンは、生体リズム、神経内分泌、睡眠、体温調節などに関与します。このような観点から、ムカデの研究もヒトに役立つと思いますし、違った視点からの研究が新たな発見につながることがしばしばあります。ムカデの研究をされている方を心から応援したいと思いました。

ムカデに噛まれた指の痛みにこらえながら、このようなことを考え、一晩過ごしたのでした。
ゴールデンウィーク中は、家庭菜園の植苗に丁度良い時期です。皆様、ムカデにはくれぐれもご注意ください。