☆卵巣刺激にはLHが必要 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

これまでに何度も卵巣刺激にはLHが必要という論文をご紹介してきましたが、本論文は35歳以上の女性では人工授精においてもLHが必要であることを示しています。

Hum Reprod 2015; 30: 179(イタリア)
要約:2012~2013年に、原因不明あるいは軽度男性因子により人工授精を実施した579名(35歳以上)の方をランダムに2群に分け(A群290名:リコンビナントFSH製剤150単位+リコンビナントLH製剤150単位、B群289名:hMG製剤150単位)、人工授精を1回実施した結果を前方視的に比較しました。なお、人工授精は、hCGトリガーの34~36時間後に行いました。結果は下記の通り。
        A群(FSH+LH) B群(hMG)
妊娠継続率   17.3%      12.2%   有意差なし
OHSS率     4.5%       0.7%   有意差あり(P=0.01)


解説:最近のメタアナリシスによると、人工授精の妊娠率アップには卵巣刺激が有効であるということが知られています。自然周期と比べ刺激周期では、妊娠率が2.3倍、生産率が2.07倍に有意に増加します。リコンビナントFSH製剤が登場してからは、人工授精の卵巣刺激においてもリコンビナントFSH製剤の使用頻度が高まりました。しかし、生体内での卵胞発育にはFSHとLHが関与しています。このため、卵巣刺激にはLHも必要であり、体外受精の卵巣刺激に関しては「FSH製剤+LH製剤」あるいは「hMG製剤」が有用であるとする論文が次第に多く発表されています。しかし、人工授精の卵巣刺激に関する同様の報告はありませんでした。本論文は、35歳以上の女性では、人工授精の卵巣刺激においてもLHが必要であり、「FSH製剤+LH製剤」あるいは「hMG製剤」が同等の効果であることを示しています。

これまでの研究から、FSHにLHを追加すると、FSHに対する卵巣の反応性の向上により卵胞発育、成熟、良好胚、内膜環境が向上し、その結果妊娠率が増加することが知られています。また、最近の研究では、LHが小卵胞を減少し大卵胞の選別に重要な役割を担っていることが報告されています。「hMG製剤」によるOHSSリスク低下はそのひとつの現れと解釈することができるかもしれません。「FSH製剤」はOHSSリスクが低下し安全だと言われて登場しましたが、何だか逆のような感じがするかもしれません。これは、あくまでも高齢の方(卵巣反応が低下している方)ではLHが必要(「FSH製剤+LH製剤」か「hMG製剤」)であることを意味しており、若年の方(卵巣反応が良好の方)では「FSH製剤」が有効かつ安全ですので、お間違いないようにお願い致します。