☆胚のグレードは胎児異常とは無関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

「この受精卵(胚)は、グレードが低いから妊娠の見込みはないですよね」「グレードが低いと赤ちゃんの異常が心配です」「この胚は見込みがないから廃棄してください」非常によくある質問です。本論文はこの質問に明確な答えを与えてくれます。本論文は、胚のグレードは妊娠率には関係しますが、妊娠してしまえば赤ちゃんの異常とは関係がないことを示しています。

Hum Reprod 2014; 29: 1444(カナダ)
要約:カナダのひとつの施設において、2008~2012年に新鮮胚の単一胚移植を行った1541名の方(40歳以下)を後方視的に検討しました。胚は、分割胚と胚盤胞を含み、グレード良好胚(1193個)と不良胚(348個)を含みます。良好胚と不良胚の妊娠率はそれぞれ41.5%と19.2%であり、良好胚は不良胚の約2倍、有意に高い妊娠率を示しました。しかし、ひとたび妊娠が成立してしまえば、出産率はそれぞれ80.6%と77.8%で同等でした。さらに、流産率、母体合併症、胎児異常、妊娠経過の異常について両群間に有意差を認めませんでした。

解説:2014.9.3「☆胚盤胞のグレードと染色体異常」の記事では、グレードが良好なものほど染色体正常である確率が高いけれども、グレードだけでは染色体が正常であることを示すことはできず、染色体異常のない胚であれば等しく妊娠(着床)できることをご紹介しました。

本論文も、グレードが良好なものほど妊娠率は高いけれども、妊娠してしまえば赤ちゃんの異常とは関係がないことを示しており、結果的にグレードはどうあれ「正常な胚」が着床し出産に至ることを意味します。

現在行われている胚のグレードは、顕微鏡でみた見かけの形(形態学的評価)からのものです。分割胚では、割球の均等不均等とフラグメントの有無で判断し、胚盤胞では、胚の大きさと細胞数から判断します。しかし、これだけでは遺伝子レベルの異常の有無は判別できません。胚のグレードは、あくまでも移植する胚に順番の目安をつけるひとつの指標と考えて欲しいと思います。4AAを移植して判定(ー)の場合に、もうあとはダメな胚だけだからと意気消沈する必要もなく、6日目の3CCだからと廃棄するのも勿体ないと思います。大切な胚を無駄にすることなく、胚の生命力を信じて移植に臨んで欲しいと思います。