胚移植のラーニングカーブ | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

このような論文が掲載されるのは、私たち医師にとっては勿論ですが、患者さんにとっても安心材料になると思います。本論文は、胚移植のラーニングカーブを検討したところ、移植15回以内にマスターすることが可能で、その後は9日に1回移植をしていれば、その技術をキープできることを示しています。

Hum Reprod 2014; 29: 1432(スペイン)
要約:2011~2012年に胚移植未経験の5名の医師が合計586回の胚移植を行った際のラーニングカーブを分析しました。腹部エコーにて子宮を観察しながら、外筒を挿入し、胚の入った内筒を挿入して胚移植を行いました。5名の医師は、それぞれ15回、9回、7回、13回、9回の手技で十分な技術の習得が認められました。また、この技術は10日以上の期間があくと落ちることがわかりました。

解説:胚移植の技術は、妊娠の成立に直接関与しますが、そのラーニングカーブについて調査した論文はこれまでありませんでした。移植に際しての重要なポイントは、移植する胚の位置、子宮収縮を誘発しないこと、移植時に胚へのダメージのないことの3つです。

スポーツと同様に、手術や手技などの医療技術も練習なしには上達しません。日本の保険制度では、どの医師が手術を行っても同じ保険点数しかつけられませんので、新人もベテランも手術の技術費用は一緒になっています。これは、本当はおかしな話なのですが、日本では技術の違いを金銭で評価する風習がないため、一律となっています。手術や手技には難易度の違いがありますので、すぐにマスターできるものから、なかなかマスターできないものまで千差万別です。その中で、胚移植の技術は比較的容易であることが、本論文から明らかになりました。わずか10回程度でマスターできるわけですから、医師も患者さんも安心して移植に臨んで欲しいと思います。